新規かび毒配糖体の検出

要約

赤かび病かび毒に汚染されたトウモロコシ試料について高分解能LC/MSによる精密質量を指標とした分析を行ない、今後わが国でもリスク評価対象となりうるタイプAトリコテセン系かび毒の配糖体4種類を新規に検出している。

  • キーワード:赤かび病、かび毒、配糖体、LC/MS、マスクドマイコトキシン
  • 担当:食品安全信頼・かび毒リスク低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8085
  • 研究所名:食品総合研究所・食品安全研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トリコテセン系かび毒は麦類やトウモロコシ等の赤かび病菌の一部が産生するかび毒である。わが国ではデオキシニバレノール(DON)とニバレノール(NIV)の汚染が重要視されている。近年、かび毒に糖が付加した配糖体(マスクドマイコトキシンとも呼ばれる)の存在が報告されている。これらの配糖体は加水分解によりかび毒を遊離することから、新たなかび毒としてのリスクが懸念されている。トリコテセン系かび毒には各種の類縁体が存在することから、これらの配糖体も多様に存在することが予想されるが、その多くは存在が確認されていない。そこで高分解能高速液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)を用いて新規かび毒配糖体の探索を行う。

成果の内容・特徴

  • 試薬標品が入手できない化合物であるため従来の手法では検出が不可能であったが、分子量(組成式)から算出される分子イオンと派生する断片(フラグメント)イオンの精密質量を指標として高分解能LC/MSで分析することにより、存在が明らかではなかった新規かび毒配糖体の検出を可能にしている。
  • 赤かび病かび毒に汚染された輸入トウモロコシ粉末試料について高分解能LC/MSを用いてT-2トキシン(T-2)由来の新規配糖体を検出している(図1)。同様に、同試料においてHT-2トキシン(HT-2)、ネオソラニオール(NES)、ジアセトキシスシルペノール(DAS)の由来の配糖体を新たに検出している(図2)。
  • トリコテセン系かび毒の配糖体はDON、NIVおよびフザレノン-XのようなタイプBトリコテセンについてのみ報告例がある。本成果はT-2、HT-2、DAS、NESのようなタイプAトリコテセンについても配糖体が存在することを示している。
  • 2011年に欧州食品安全機関(EFSA)はT-2およびHT-2の合量について耐容一日摂取量(TDI)100 ng/kg体重を設定している。今後これらのかび毒についてわが国でもリスク評価がなされる可能性も考えられることから、両者の配糖体の存在を明らかにしたことは重要な科学的知見を提供するものである。

成果の活用面・留意点

  • かび毒配糖体は加水分解によってかび毒を遊離する。従ってかび毒配糖体の存在を明らかにすることは、かび毒の潜在リスクを解明するために役立つ。一方、定量的な情報を得るためには、各種配糖体の試薬標品が必要である。
  • 本成果はトウモロコシ粉末についてのものであるが、高分解能LC/MSを用いた分析法は他の農作物に含まれる各種未知化合物(存在が明らかではない化合物)の探索にも利用可能である。

具体的データ

 図1~2

その他

  • 中課題名:かび毒産生病害からの食品安全性確保技術の開発
  • 中課題番号:180a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:中川博之
  • 発表論文等:Nakagawa H. et al. (2012) World Mycotoxin Journal, 5: 271-280