安定同位体比分析による国産・中国産および韓国産湯通し塩蔵ワカメの産地判別

要約

日本(三陸産・鳴門産)・中国・韓国において湯通し塩蔵ワカメを入手し、炭素・窒素同位体比を用いて産地判別の可能性を検証したところ、鳴門産の窒素同位体比は、三陸産・韓国産・中国産よりも有意に高く判別が可能である。

  • キーワード:産地判別、安定同位体比、湯通し塩蔵ワカメ
  • 担当:食品安全信頼・信頼性確保
  • 代表連絡先:電話 029-838-8059
  • 研究所名:食品総合研究所・食品分析研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2008年から2012年にかけて連続して国産ワカメの産地偽装問題が発生しており、科学的根拠に基づく産地判別技術の開発が求められている。一般的に、水界生態系における一次生産者の炭素・窒素同位体比は、生育環境中の無機態炭素・無機態窒素の濃度やそれらの炭素・窒素同位体比などの影響を反映する。よって、固着性の藻類であるワカメの炭素・窒素同位体比は、その生育環境を反映し、地域によって変動すると考えられる。本研究では、2011年産の日本(三陸産・鳴門産)・中国・韓国において浜単位で産地が明らかとなっている湯通し塩蔵ワカメを入手し、炭素・窒素同位体比を用いて産地判別の可能性を検討する。

成果の内容・特徴

  • 三陸産湯通し塩蔵ワカメの炭素・窒素同位体比は、それぞれ-17.7±2.3‰(平均値±標準偏差)、1.4±1.9‰、鳴門産は、-16.6±0.9‰、10.7±1.1‰、中国産は-17.5±1.8‰、3.0±2.5‰、韓国産は-16.1±1.2‰、0.5±1.6‰となり、とくに鳴門産の窒素同位体比が他の3地域よりも有意に高い値を示す(p<0.001)(図1)。
  • 鳴門産において地域別に窒素同位体比を比較すると、北泊は11.1±0.4‰(平均値±標準偏差)、北灘は11.8±0.4‰、鳴門町は10.6±0.6‰、丸山は11.8±0.5‰、里浦は10.4±0.5‰、和田島は9.8±0.2‰、福村は9.0±0.4‰となり、どの地域においても鳴門産は窒素同位体比が高い傾向が見られるが、和田島および福村については、鳴門産の中では比較的窒素同位体比が低い傾向が認められる。
  • 炭素・窒素同位体比の分析結果を用いて、鳴門産とその他(三陸・中国・韓国)の2群について線形判別分析を行った結果、判別関数を構築した試料について、正答率を計算すると、鳴門産は98.4%(64点中)、その他産は99.4%(148点中)となる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 鳴門の一部地域(和田島・福村)の検体については、窒素同位体比が比較的低いことから、判別分析ではグレーゾーンに入る可能性がある。
  • 本研究に用いたのは、2011年産品のデータのみであり、年変動の可能性が示唆されることから、安定同位体比の年変動の有無を調査する必要がある。
  • 三陸産・中国産・韓国産についての判別も含め、より詳細な判別のためには、安定同位体比についても元素数を増やし、さらに微量元素分析結果を総合し、判別精度を高めることが求められる。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:信頼性確保のための原材料・生産履歴判別等の技術開発と標準化
  • 中課題番号:180d0
  • 予算区分:共同研究(理研ビタミン)、交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:鈴木彌生子
  • 発表論文等:鈴木彌生子ら(2013)日本食品科学工学会誌、60:1-10