シャークミルを用いた粉砕分画によるサトウキビ搾汁残渣のカスケード利用

要約

サトウキビ搾汁残渣をシャークミル粉砕し、スクリーン通過の有無により二画分に分離する。両者の成分組成および酵素糖化性の差に基づき、通過画分はRT-CaCCO法による繊維質糖化に利用し、非通過画分はボード原料・ボイラー燃料に供する工程を提案する。

  • キーワード:サトウキビ、バガス、カスケード利用、糖化技術、RT-CaCCO法
  • 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015
  • 研究所名:食品総合研究所・食品素材科学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

サトウキビ搾汁残渣(バガス)は、微量のショ糖を含み腐敗性が高いことから、大部分が製糖工場のボイラー燃料として処理されている。その一方で、余剰バガスを燃料用エタノール製造原料として糖化するための技術開発が国内外で精力的に行われている。そこで、本研究では、腐敗性が高い繊維質の糖化に有効な常温アルカリ前処理技術(RT-CaCCO法、2010年度研究成果情報)の1回搾汁後のバガスへの適用性を確認する。その際には、まずバガスをシャークミルにより粉砕し、スクリーン通過特性に基づき二画分に分離し、前処理効果がより大きい画分のみを糖化原料として利用することで、品質レベルに応じた利用(カスケード利用)を図る。

成果の内容・特徴

  • サトウキビ「農林8号」を卓上小型圧搾機(マツオ TM-120-01)により1回搾汁し、ショ糖を粗取りした後のバガス(ショ糖高含有バガス、含水率50.6%)を得た。これをR&Dマルチミル(グローエンジニアリングRD1-15)により異なる処理時間でシャークミル粉砕し、2:8、4:6、6:4および8:2の湿重量比となる4組(8種類)の5 mmスクリーン通過画分(P)と非通過画分(N)を調製した(図1)。
  • ショ糖高含有バガスおよび各画分を70°Cで3日以上乾燥した後、高速粉砕機(大阪ケミカル PM-2005)で微粉砕(0.5 mmスクリーン通過画分として回収)し、微粉砕物の成分分析を行った(表1)。その結果、P画分は、N画分と比較してショ糖濃度が高いのに対して、セルロース、キシランおよびリグニンの濃度が低く、この結果から、P画分はショ糖を含む柔組織に富むのに対して、N画分は木化細胞壁に富むことが示唆された。
  • 微粉砕物を用いてRT-CaCCO法前処理および酵素糖化を行うため、微粉砕物に対して20%重量の水酸化カルシウムと20倍重量の脱イオン水を混合し、密封後に室温で7日間静置した後、炭酸ガス注入によりpH6とし、セルラーゼ製剤、β-グルコシダーゼ製剤およびキシラナーゼ製剤を加えて50°Cで72時間の酵素糖化を行った。酵素糖化率は、微粉砕物の繊維性糖質からの可溶性糖質回収率として計算した(図2)。その結果、P画分の方がN画分よりもRT-CaCCO法による前処理効果が高いことが明らかとなった。このように、バガスの酵素糖化性が高い部分(P画分)と木部細胞壁に富む部分(N画分)に分画することにより、前者をRT-CaCCO法による糖化原料とし、後者をボード原料やボイラー燃料用途に供するカスケード利用が有効と期待される。

成果の活用面・留意点

  • 1回搾汁ではショ糖が繊維質内に残るが、現行工程での洗浄水添加・繰り返し搾汁を省くとともに、バガス中のショ糖を繊維とともにバイオエタノール製造工程に供する。
  • RT-CaCCO法は、腐敗性が高い原料の長期湿式貯蔵技術としての役割もあり、ショ糖を含む原料の長期安定供給が可能となり、プロセスの効率化に繋がることが期待される。
  • 最適粉砕条件は、カスケード利用を考慮した際のバガスの分配比の設定値に影響を受ける。P画分の回収に必要な粉砕時の負荷は、P画分の量が増すにつれて増大する。

具体的データ

図1シャークミル装置内スクリーンの通過の有無によりP画分とN画分に分離。搾汁残渣10量を投入し、粉砕時間を変化させることにより、異なった湿重量(記号の前に数字として記載)で同時に得られる4組(8種類)の試料(2Pと8N、4Pと6N、6Pと4N、そして8Pと2N)を調製した。

図2 図3
Ctrlはシャークミル粉砕前のショ糖高含有バガス(乾燥微粉末).
a乾燥重量中の存在率.
b
標準偏差(n=3).
c
酸可溶性リグニンと酸不溶性リグニンの和.
横軸数字は表1と同じ.
繊維質多糖の酵素糖化率として評価.
青色(各画分に対する二本棒の左側):六炭糖の糖化率(%)、赤色(右側):五炭糖の糖化率(%).

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
  • 中課題番号:220c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:徳安健、池正和、城間力、朴正一、荒金光弘、石川葉子(九沖農研)、寺島義文(国際農研)
  • 発表論文等:城間力ら(2012) Bioresour. Technol. 116:529-532