高温におけるキシルロース発酵能を強化した酵母を用いたバイオエタノール生産法

要約

高温におけるキシルロース発酵能を強化した酵母株を用いて同時異性化発酵を行うことにより、稲わら等のリグノセルロース系バイオマスに多く含まれるキシロースを、40°Cでキシルロースに酵素変換しながらエタノールに発酵する技術である。

  • キーワード:バイオエタノール、キシロース、酵母、同時異性化発酵、稲わら
  • 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-8061
  • 研究所名:食品総合研究所・食品バイオテクノロジー研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

再生可能資源であるバイオマスから生産されるエタノール(バイオエタノール)は、ガソリンの代替燃料として利用することにより、地球温暖化抑制に寄与するものとして注目されている。食料との競合を避けるために、稲わらのようなリグノセルロース系バイオマスからバイオエタノールを生産することが求められているが、これらのバイオマスには一般的な酵母が利用できないキシロースも多く含まれており、キシロースを効率的にエタノールに変換する技術が必要である。バイオエタノールの生産には、糖化と発酵を同時に行う並行複発酵がしばしば用いられるものの、リグノセルロース系バイオマスの並行複発酵では、酵素による糖化の最適温度(約50°C)と酵母による発酵の最適温度(約30°C)とが大きく異なるという問題が生じている。本研究ではリグノセルロース系バイオマスにおける並行複発酵の効率化を図るために、40°Cでキシロースをエタノールに変換する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 40°Cでキシロースを発酵可能な酵母を開発するために、40°Cにおいてキシロース発酵の代謝中間産物であるキシルロースを発酵可能な酵母の単離を行った。食品総合研究所のカルチャーコレクションを検索した結果、Candida glabrata NFRI 3163が得られた。
  • C. glabrata NFRI 3163を用いて同時異性化発酵(図1)によるキシロースの発酵を試みた。その結果、NFRI 3163は40°C、72時間の発酵によって、2 % (w/v) キシロースから理論収率の49 %でエタノールを生産した(図2a)。本株では、エタノール収率の低下の原因となるキシリトールの蓄積も見られた。
  • エタノール収率向上のために、C. glabrata NFRI 3163に対して、自身のキシルロキナーゼ遺伝子の高発現とアルドースレダクターゼ遺伝子の破壊による代謝系の改良を行った(図1)。改良株であるC. glabrata 3163 dgXK1を用いて同時異性化発酵を行ったところ、40 ?C、72時間の発酵によって、2 % (w/v) キシロースから理論収率の75 %に相当する0.78 % (w/v) エタノールを生産することができた(図2b)。また、キシリトールの蓄積も非常に低いレベルに抑制することができた。
  • 水酸化カルシウムで前処理した稲わらを原料に、C. glabrata 3163 dgXK1を用いて並行複発酵と同時異性化発酵を組み合わせてエタノール生産を行った。その結果、実際のバイオマスを原料とした場合でも、40 ?Cにおいてキシロースが消費されエタノールが生産されることを確認した(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本法では、他生物種由来の遺伝子を必要としないため、セルフクローニングによる酵母の改良が可能である。
  • 稲わらを原料に用いた場合には、発酵時間120時間においても発酵液中にキシロースの残存が見られたため、添加酵素量の最適化等の更なる検討が必要である。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
  • 中課題番号:220c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(バイオマス、バイオ燃料)
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:榊原祥清、王暁輝、中村敏英、徳安健
  • 発表論文等:榊原祥清ら「キシロースを高温で発酵する方法」特願2012-135883