NMRメタボロミクスによるジャガイモ疫病抵抗性品種・系統の識別マーカーの同定

要約

圃場で栽培した疫病発症前のバレイショ健全葉抽出物の1H-NMRスペクトルは、疫病抵抗性の程度に応じて異なる代謝物プロファイルを示す。この違いを反映するマーカー代謝物の一つはL-リンゴ酸であり、簡易で安価な疫病抵抗性識別方法として有効である。

  • キーワード:NMR、メタボローム、ジャガイモ疫病、L-リンゴ酸
  • 担当:加工流通プロセス・先端流通加工
  • 代表連絡先:電話 029-838-8014
  • 研究所名:食品総合研究所・食品分析研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ジャガイモ疫病は、疫病菌Phytophthora infestansによって引き起こされる重要病害であり、茎葉枯死および塊茎の腐敗による減収などの被害をもたらす。疫病菌の各レースに対しては、種々の抵抗性遺伝子(R 遺伝子)が知られており、これらを組み合わせ持つレース特異的抵抗性(真性抵抗性)を示すバレイショ品種が育種されている。一方、疫病菌レースは次々と分化し、レース1~11をはじめ種々の病原性を有するものが見出されている。既存の真性抵抗性品種に病原性を示すレースが発生すると罹病被害が大きくなるため(図1)、近年は、複数の遺伝子が関与し、どのレースにもある程度の抵抗性を示し、罹病しても病状が軽い圃場抵抗性に着目した育種が進められている。
しかし圃場抵抗性の評価には、1)多様なレースに対して部分的な抵抗性を示す複数の遺伝子群を特定する必要がある、2)室内での接種試験では期待通りの抵抗性を発揮しない場合があり、人工接種による評価が難しい、3)無防除栽培圃場での検定は数ヶ月の期間と多くの労力を要する、等の問題がある。そこで本研究では、バレイショの系統や品種の圃場での疫病抵抗性を迅速に判別するための新たな指標の探索を目的とし、NMR法によるメタボローム解析を行う。

成果の内容・特徴

  • NMR法による迅速なメタボローム解析は、図2に示す方法によって行う。疫病発症前の健全葉の水抽出物の1H-NMRスペクトルを計測し、統計解析に供する。
  • 葉水抽出物の1H-NMRスペクトルの階層的クラスター解析では、抵抗性に対応した階層構造(クレード)が見出される(図3)。
  • この疫病抵抗性を反映するクレード形成に寄与の大きい代謝物の一つがL-リンゴ酸なので、この代謝物をジャガイモ疫病抵抗性のマーカー代謝物として利用できる。
  • 葉水抽出物中のL-リンゴ酸は、市販の酵素法キットを使用して簡易に定量可能である。
  • L-リンゴ酸は、乾燥重量1mgの葉に約10µg~50µg程度含まれ、罹病度を表すAUDPC値が低い(すなわち、抵抗性が強い)品種ほど含量が多い(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本技術により、疫病菌を接種せずに抵抗性を判別できる。
  • 本技術は、疫病発症直前の圃場試料に対して有効であるが、その他の時期に採取された試料についても検証が必要である。
  • 圃場における疫病菌レースの分布は年により変化する可能性があり、それにともない抵抗性マーカー代謝物も変わる可能性があるため、数年にわたる調査が必要である。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:先端技術を活用した流通・加工利用技術及び評価技術の開発
  • 中課題番号:330c0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:関山恭代、小野裕嗣、池田成志、津田昌吾、染谷信孝
  • 発表論文等:関山ら「病害抵抗性品種系統の識別方法」特願2012-139923