脂質ラフト構造破壊による酸化LDL受容体の機能制御

要約

動脈硬化発症の初期に重要な役割を担う酸化LDL受容体(LOX-1)は、細胞膜上の微小領域である"脂質ラフト"に集結してクラスターを形成し、機能を発揮する。食生活改善により脂質ラフト構造を変化させることにより、LOX-1の機能制御が可能となる。

  • キーワード:酸化LDL、酸化LDL受容体(LOX-1)、脂質ラフト、クラスター形成、動脈硬化
  • 担当:加工流通プロセス・食品生物機能利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8013
  • 研究所名:食品総合研究所・食品バイオテクノロジー研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

酸化LDL受容体(LOX-1)は、動脈硬化発症の初期に重要な役割を果たしているが、食生活改善による機能制御が可能だと考えられている。LOX-1は、2量体形成後に細胞膜上でクラスターを形成し機能を発揮することが明らかにされており、クラスター形成は、LOX-1機能制御の重要な標的と考えられてきた。
そこで、食品摂取によるLOX-1制御手法、および、動脈硬化発症抑制に効果的な農林水産物や食品の新規評価手法の開発を目指し、LOX-1のクラスター形成機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • ヒト冠状動脈内皮細胞 (human coronary artery endothelial cells: HCAEC)では、LOX-1は脂質ラフトに局在するが、パルミトイル化阻害剤(2-ブロモパルミチン酸:2BP)により、脂質ラフトへの局在が阻害される(図1)。
  • パルミトイル化が予想されるシステイン残基に変異を導入した変異LOX-1発現細胞株を作製し、酸化LDL認識能を評価すると、36番目と46番目の CysをSerに置換した変異体(C36S、C46SおよびC36S/C46S)において、酸化LDLを認識し取り込む機能が顕著に低下する(図2)。
  • ショ糖密度勾配遠心法によりLOX-1の局在を確認すると、変異LOX-1(C36S、C46SおよびC36S/C46S)では脂質ラフトへの局在性が低下する。さらに、いずれの変異体でもパルミトイル化の効率が低下する(図3)。
  • 脂質ラフトを構成するコレステロールの断片化を引き起こすナイスタチンを培地に添加することにより脂質ラフト構造に変化が起こり、LOX-1の酸化LDL認識と細胞内への取り込みが顕著に阻害される(図4)。
  • 以上から、LOX-1は、パルミトイル化により脂質ラフトに局在しクラスターを形成することにより、巨大分子である酸化LDLを認識し取り込むことが可能になる。さらに、脂質ラフト構造の破壊により、LOX-1の酸化LDL認識活性を制御可能であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • LOX-1が発現している内皮細胞は血流と接しており、脂質ラフト構造は血中成分の影響を受け易い。そのため、脂質ラフト構造破壊によるLOX-1の機能制御が可能である。
  • 血中成分は、摂取する食品の影響を受け易い。そのため、食品を介したLOX-1機能制御が期待される。
  • 脂質ラフト構造破壊を介したLOX-1のクラスター形成阻害の測定手法、ならびに、動脈硬化発症を抑制し血管の健康を維持する農林水産物や食品開発分野における新たな評価手法として活用可能である。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:新需要創出のための生物機能の解明と新たな生物機能の解明・改変技術の開発
  • 中課題番号:330d0
  • 予算区分:交付金、科研費、JST A-Step
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:町田幸子
  • 発表論文等:
    1)Kuramochi M. K. et al. (2012) The Biochemical Journal 442:171-180,
    2)Shibata T. et al. (2011)J.Biol.Chem. 286:19943-19957
    3) 町田ら「ワンタッチ式細胞動態観察装置」特許第5062587号
    4)松永ら「細胞動態の観察装置」特許第502477号
    5)町田ら「酸化LDL受容体に作用するリポソーム」特願2012-72404