安定同位体比と微量元素組成を用いた湯通し塩蔵ワカメの産地判別高度化

要約

日本産(三陸産・鳴門産)・中国産・韓国産の湯通し塩蔵ワカメについて、安定同位体比に加え、9元素の微量元素組成を組み合わせることで産地判別の正確さが向上する。

  • キーワード:産地判別、安定同位体比、微量元素組成、湯通し塩蔵ワカメ
  • 担当:食品安全信頼・信頼性確保
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品分析研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ワカメについては、比較的安価な中国産を鳴門産などの国産として販売する産地偽装問題が発生しており、科学的根拠に基づく産地判別技術の開発が求められている。ワカメは、葉体で栄養分の吸収などを行うことから、生育環境中の無機態炭素・無機態窒素や微量元素組成などの影響を反映すると考えられる。これまでに、湯通し塩蔵ワカメについて、安定同位体比分析による鳴門産の産地判別の可能性を見出している。本研究では、2011年・2012年に日本(三陸・鳴門)・中国・韓国で入手した湯通し塩蔵ワカメについて、炭素・窒素同位体比に加え、元素組成(Mg・P・Ca・V・Mn・Zn・Rb・Sr・Ba)を組み合わせ、産地判別の高精度化を図る。

成果の内容・特徴

  • 2011年・2012年ともに、鳴門産の窒素同位体比が有意に高い傾向がある(図1)。 炭素・窒素同位体比について、鳴門とその他(三陸・中国・韓国)の3地域を産地とするワカメでは、鳴門産の判別率は92.8%(n=119)である。
  • 微量元素組成について、2011年および2012年に共通して、中国産ではMg・Ba・Mn・V・Znの濃度が高い傾向が認められるが、Mg・Vの濃度については、2011年に比べると濃度が低い。また、他の地域においても微量元素濃度の年次変化があり、三陸ではP濃度、韓国ではCaおよびRb濃度で、2011年と2012年の間で変化が見られる。
  • 安定同位体比と微量元素組成を組み合わせて4地域(三陸産・鳴門産・中国産・韓国産)のワカメを対象とすると、鳴門産の判別率は100% (n=119)、中国産の判別率は97.5% (n=89)である(図2)。安定同位体比と微量元素組成を組み合わせることで、湯通し塩蔵ワカメの産地判別の正確さが向上する。

成果の活用面・留意点

  • 鳴門産の中でも、最も外湾に位置する福村の検体については、2011年産と同様に、窒素同位体比が他の鳴門地域に比べると低い傾向が認められる。一般に、内湾は外湾に比べると窒素同位体比が高くなる傾向が報告されており、外湾よりである福村産については窒素同位体比が低く、安定同位体比による判別分析ではグレーゾーンに入る可能性がある。
  • 三陸産および韓国産の判別については、判別モデルの検証により、相互に分布が重なり、炭素・窒素同位体比および9元素組成では判別が困難と考えられる。三陸産・韓国産についての判別も含め、より高精度な判別のためには、さらに元素数を増やし、判別精度を高めることが求められる。
  • 2011年および2012年のデータにおいて、一部の微量元素濃度に年次変化が見られたことから、引き続きの年次変化を調査する必要がある。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:信頼性確保のための原材料・生産履歴判別等の技術開発と標準化
  • 中課題整理番号:180d0
  • 予算区分:共同研究(理研ビタミン)、交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:鈴木彌生子、國分敦子(理研ビタミン)、絵面智宏(理研ビタミン)、中山和美(理研ビタミン)
  • 発表論文等:
    1) 鈴木ら(2014)食科工誌、61(3):134-138
    2) 鈴木ら(2014)分析化学、in press