異種遺伝子を含まない酵母を用いた高効率キシロース発酵法の開発

要約

実用的な高効率バイオエタノール生産法を構築するために、異種遺伝子を用いずに キシルロース発酵能が強化されたSaccharomyces cerevisiae 酵母を開発する。本酵母を使用して同時異性化発酵を行うことにより、リグノセルロース系バイオマスに含まれるキシロースを効率良く発酵できる。

  • キーワード:バイオエタノール、キシロース、酵母、同時異性化発酵、セルフクローニング
  • 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品バイオテクノロジー研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

稲わら等リグノセルロース系バイオマス原料を利用してバイオエタノールを効率的に生産するには、これら原料に多量に含まれるキシロースのエタノールへの変換が重要な課題である。しかしながら、醸造産業等でエタノール発酵に最もよく利用されているSaccharomyces cerevisiae 酵母はキシロースを利用することができず、遺伝子組換えによるキシロース発酵能の付与が行われている。既に我々も、高キシルロース発酵性遺伝子組換え酵母株Candida glabrata 3163 dgXK1を用いて、キシロースイソメラーゼを添加した同時異性化発酵を行うことにより、従来困難であったキシロースの高温(40 °C)発酵法の開発に成功している(平成24年度食品試験研究成果情報)。しかし、遺伝子組換え体の利用は、拡散防止措置の必要性等から、実用化の際の障害となることが予想される。そこで、同種遺伝子のみを使用するセルフクローニングによってS. cerevisiae を改良し、C. glabrata 3163 dgXK1と同等の同時異性化発酵能を有する酵母株を開発する。

成果の内容・特徴

  • 食品総合研究所カルチャーコレクションから、40 °C で高いキシルロース発酵能を示すS. cerevisiae St10-1-1株を単離した。本株は3163 dgXK1の親株C. glabrata NFRI 3163株よりは低いものの、既知の高キシルロース発酵性S. cerevisiae ATCC 24860株より、40 °Cで顕著に高いキシルロース発酵能を示す(図1)。
  • St10-1-1株のキシルロース発酵能をさらに増強するため、セルフクローニングによるキシルロキナーゼ遺伝子(XKS1)高発現株の作出を行う。まず、St10-1-1ゲノムDNAを鋳型にセルフクローニングに必要な遺伝子領域をPCRによって増幅し、それらを連結することで、リンカー配列や異種遺伝子を含まないDNA断片を構築する(図2)。次に、St10-1-1の突然変異により単離したリジン要求性変異株に、このDNA断片を導入し、リジン非要求性株を選抜する。得られたSt10 TEF1p-XKS1株のゲノム中には、野生型XKS1に加えて、高発現型XKS1(TEF1p-XKS1)が存在する。
  • スラリー濃度20 % (w/w)の稲わら糖化液に相当する5.6 % (w/v) グルコース及び4.2 %(w/v) キシロースを含む培地を用いて同時異性化発酵を行うことにより、St10 TEF1p-XKS1は、親株St10-1-1 やC. glabrata 3163 dgXK1 よりも早くキシロースを消費し、48 時間発酵で4.3 % (w/v)のエタノールを生産する(図3)。St10 TEF1p-XKS1 のエタノール収率は理論収率の85 %であり、3163 dgXK1 の収率(80%)を上回る。

成果の活用面・留意点

  • 今後、St10 TEF1p-XKS1 がセルフクローニング株に該当することを旦保するためのより詳細な科学的根拠を集積する必要がある。
  • St10 TEF1p-XKS1 は3163 dgXK1 と比べ副産物(グリセロール、キシリトール)の生成量が多いことから、これらを抑制すると更にエタノール収率が増加する可能性がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
  • 中課題整理番号:220c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(バイオ燃料)
  • 研究期間:2012~2013年度
  • 研究担当者:榊原祥清、中村敏英、徳安健
  • 発表論文等:榊原ら 「キシロースを高温で発酵する方法」特開2014-14360