米粉パン特有のテクスチャーを回復率や伸長率の測定によって数値化する

要約

変形率80%まで圧縮した際のクラムの回復率や貫通試験によって得られた荷重曲線の破断点後の傾きが、米粉パン特有の噛んだ時の食感に関与する指標として使用できる。パンの老化とともにこれらの数値は変動するので、老化の指標としても利用できる。

  • キーワード:米粉パン、テクスチャー、老化、回復率、貫通試験
  • 担当:加工流通プロセス・食品素材高付加価値化
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品機能研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

米粉を配合したパン(米粉パン)は小麦粉100%のパンとは異なる独特なテクスチャーをもつことが知られており、「もちもちとした食感」等の表現がよく使われている。この独特なテクスチャーは複合的な要素をもつため、総合的な評価よりはそのテクスチャーの各構成要素を機器測定によって客観的な数値として示すことが、米粉パンのテクスチャー評価法として有効である。そこで、米粉を配合することによって生じるユニークなテクスチャーの構成要素を多面的な機器測定で明らかにし、米粉パンの品質制御・改良やパンの老化の指標として使用できる客観的なパラメータを提示することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 大変形下(変形率80%)での圧縮試験を2回繰り返した時のクラムの厚さの比率を回復率として測定した結果、小麦粉100%のパンに比べると米粉パンの回復率は顕著に低く、焼成1日目まではアミロース含量の少ない米粉を配合したパンほど回復率が低い(図1)。米粉をパンに配合することによってクラムの組織の内部結着力が高まり、圧縮した時の戻りにくさが独特の食感につながっていると推察される。また、そのクラムの戻りにくさの特徴は米粉のアミロース含量が低いほど増強される。
  • 小麦粉 100%のパンでは回復率の経時変化はほとんど見られないが、米粉パンでは保存にともない増加する傾向が認められたため、米粉パン特有の老化の指標として有効である(図1)。
  • クラムの中心部を球型のプランジャーが貫通することによって抽出できる伸びる過程での破断特性に米粉パン特有の特徴が見られ、破断点後の伸長率が小麦粉100%のパンより高い傾向が認められる(図2)。
  • 貫通試験に球型のプランジャーを使用することによって、米粉パンの老化にともなう伸長率の減少、および破断荷重値の減少(もろさの増加)が観察できる(図3)。貫通試験で測定した伸長率の経時変化の傾きから老化速度をもとめると、小麦粉パンよりも米粉パンの方が速い。
  • パンの引っ張り試験は試料を固定した箇所が破断しやすいため、過去の測定例が少ないが、ピザ用の突き刺しタイプの固定治具を用いることによって、各種パンの特徴を明らかにできる。焼成日は米粉パンのクラムの伸長率が小麦粉パンよりも高く、さらに米粉のアミロース含量が低下するに従い、伸長率が増加する傾向が見られる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 米粉パン特有の食感に関与しているクラムの内部結着力による戻りにくさや、伸びる感覚が客観的な数値として示せる評価法を確立したことによって、パンの品質改良や米粉用品種の品種改良にこれらの評価法の活用が期待される。また、従来の老化の指標である「かたさ」の変化だけではなく、米粉パンの品質を多面的に測定することができる。
  • 引っ張り試験に関しては、試料を固定した箇所が破断しやすいため、クラムの密度が高い部分に固定治具のピンを突き刺すと、測定の安定化が図られる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:食品及び食品素材の高付加価値化技術の開発
  • 中課題整理番号:330b0
  • 予算区分:委託プロ(米粉プロ)、交付金
  • 研究期間:2010~2013 年度
  • 研究担当者:佐々木朋子、奥西智哉
  • 発表論文等:Sasaki T. et al. (2014) Cereal Chem.91(2):146-151.