放射性セシウムの大豆の加工・調理における加工係数

要約

原料大豆の放射性セシウム濃度から最終加工・調理品の放射性セシウム濃度を推定する場合に活用される加工係数は、豆腐、納豆、煮豆においてそれぞれ0.12、0.40、0.20である。

  • キーワード:放射性セシウム、大豆、加工係数、豆腐、納豆、煮豆
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品安全研究領域、応用微生物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

一般食品に含まれる放射性セシウム濃度(134Cs+137Cs)は食品衛生法で基準値100Bq/kgと規定されており、正確なリスク評価・管理のためには、その加工・調理過程における放射性セシウムの動態も把握する必要がある。国内産大豆は80%以上が豆腐、納豆、煮豆に加工・調理された状態で消費されていることから、加工・調理過程での放射性セシウムの動態を解明し、正確な科学データを行政、大豆を扱う食品産業および消費者に提供し、リスク管理や食品への放射能影響に関する正しい理解促進に役立てる。

成果の内容・特徴

  • 豆腐(充填豆腐)、納豆、煮豆の放射性セシウムの加工係数【加工後の放射性セシウム濃度(Bq/kg,新鮮重)/加工前の放射性セシウム濃度(Bq/kg,新鮮重)】は0.12、0.40、0.20 となり(表1)、原料大豆に比べ加工・調理品での放射性セシウム濃度は低減する。これらの結果は農林水産省などの報告と同じである。
  • 放射性カリウムの加工係数は、豆腐、納豆、煮豆でそれぞれ0.12、0.42、0.22(表1)であり、日本食品標準成分表2010(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告)における市販品での総カリウム(放射性+非放射性カリウムの総量)の加工係数((豆腐、納豆、煮豆でそれぞれ0.07、0.35、0.17)と同程度である。1.と2.の結果から、大豆の調理・加工における放射性セシウムの動態はカリウムの動態と同じであると考えられる。
  • 放射性セシウムの残存割合【加工品に含まれる放射性セシウム(Bq)/原料に含まれる放射性セシウム(Bq)×100】(%)を計算すると、豆腐(充填豆腐)、納豆、煮豆において、原料大豆に含まれる放射性セシウムのそれぞれ67、85、45%が加工・調理品中に残存しており(図1)、豆腐加工ではおからとして30%、納豆加工では加圧蒸煮排水として17%、煮豆調理では煮汁として45%の放射性セシウムが除去される。納豆の製造過程においては、発酵前の蒸煮大豆と納豆の残存割合に有意な差がなく(図1)、発酵工程において放射性セシウムの低減や増加はない。

成果の活用面・留意点

  • 原料大豆の放射性セシウム濃度に加工係数をかけると、その加工・調理品の放射性セシウム濃度となる。加工係数を目安とすることにより、原料大豆の放射性セシウム濃度から豆腐、納豆、煮豆およびおからの放射性セシウム濃度を推定できる。
  • 行政のリスク管理や食品中の放射性物質の正しい理解促進のために活用できる。しかし、実際の商品では、加工・調理での加水量や工程が製造者によって異なることから、この加工係数と完全には一致せず、数値に幅があることを理解しておく必要がある。
  • 充填豆腐は、絹ごし豆腐や木綿豆腐のように水さらしや圧縮行程がないことから、絹ごし豆腐や木綿豆腐と比較すると放射性セシウムの残存割合が高いと予想される。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:交付金、助成金(すかいらーく)
  • 研究期間:2013 年度
  • 研究担当者:八戸真弓、濱松潮香、久保雄司(茨城工技セ)、丹治克男(福島農総セ)、中川力夫(茨城工技セ)、木村啓太郎
  • 発表論文等:
    1)八戸ら(2013)Journal of Food Protection,76(6), 1021-1026
    2)八戸(2013)環境パラメータ・シリーズ4 増補版「食品の調理・加工における放射性核種の除去率」(公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センター技術報告書), 33-36