FMP21遺伝子の発現量増加は出芽酵母の高温耐性を強化する
要約
出芽酵母におけるFMP21遺伝子の発現量増加比率は、菌株の高温耐性能と相関がある。出芽酵母でFMP21遺伝子の発現量を増加させると高温耐性能が向上する。
- キーワード:出芽酵母、高温ストレス、エタノール発酵、分子育種
- 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
- 代表連絡先:電話 029-838-7991
- 研究所名:食品総合研究所・応用微生物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
稲わら等の未利用バイオマスやサトウキビ等の生物資源からのバイオエタノール生産において、高機能を有するエタノール生産用酵母の利用は、コスト削減や環境負荷低減に高い有効性を発揮するものと期待される。エタノール発酵工程では、発酵熱等による発酵槽の温度上昇が酵母に高温ストレスを与え、生育や発酵機能を大きく阻害することから、多大なエネルギーを使って発酵槽を冷却している。高温条件下でも生育や発酵を阻害されない高温ストレスに強い酵母を使用できれば冷却に必要なエネルギーを減らすことができることから、その育種手法の開発が強く求められている。
本成果では、高温耐性能の異なる出芽酵母を用いて、高温耐性能と発現量増加比率に相関のある遺伝子をDNAマイクロアレイで全遺伝子網羅的に検索を行い、そこから得られた遺伝子が高温耐性能の強化に利用できることについて紹介する。
成果の内容・特徴
- 出芽酵母は、菌株によって高温下での生育特性が異なる(図1)。
- 高温耐性の高いNFRI 3236株のFMP21遺伝子の高温下での発現量増加比率は、高温耐性の低いNFRI 3155株の約2倍となるなど、高温耐性の高い出芽酵母はFMP21遺伝子の発現量増加比率が高い。
- FMP21遺伝子は138アミノ酸をコードし、遺伝子産物はミトコンドリアに局在するコハク酸デヒドロゲナーゼの構成に重要な働きをすることが報告されている(Van Vranken et al. (2014) Cell Metab, 20: 241-52.)。
- 高温条件下におけるFMP21遺伝子の発現量増加比率は、菌株の倍加時間比率と相関がある(図2)。菌株の30°Cと37°CにおけるFMP21の遺伝子発現量を調べることで、37°Cにおける倍加時間が推定できる。
- FMP21遺伝子を欠損した菌株は、高温条件下での生育速度が対数増殖期で約25%低下する(図3)。
- FMP21遺伝子をTDH3遺伝子プロモーター制御下で過剰発現させた菌株は、親株(野生型株)よりも高温条件下での生育速度が対数増殖期で約22%向上する(図4)。
成果の活用面・留意点
- FMP21の遺伝子発現量増加比率は高温耐性能と相関がみられることから、これをマーカーとして用いることで新規に分離した出芽酵母の高温耐性能を推定することができる。
- FMP21遺伝子をセルフクローニング法等により過剰発現させることで出芽酵母の高温耐性を強化することができる。
- 酵母には複数の高温耐性機構が存在すると考えられており、FMP21遺伝子の機能を他の遺伝子の機能と組み合わせることで、高温耐性能を一層強化できるものと期待される。
具体的データ
その他
- 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
- 中課題整理番号:220c0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012?2014年度
- 研究担当者:中村敏英、山本まみ、齋藤勝一、安藤聡、島純(龍谷大)
- 発表論文等:Nakamura et al. (2014) AMB Express, 4: 67.