NF膜によるクランベリー果汁からの安息香酸回収

要約

クランベリー果汁から、防菌・防カビ効果を有する安息香酸の一部をナノろ過(NF)処理により分離し回収する。安息香酸(分子量;122)をその他の有機酸や糖類、色素(分子量134以上)から選択的に分離し、高純度で回収できる製造条件を明らかにする。

  • キーワード:クランベリー果汁、安息香酸、ナノろ過膜、分子量
  • 担当:加工流通プロセス・先端流通加工
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

安息香酸は、防菌・防カビ効果を有することから、食品や医薬品、化粧品などの保存料として利用されている。クランベリー果汁は、ジャム等の加工製品の保存性確保に必要な量以上の安息香酸を含有しており、保存料としての活用が期待できる。そこで、ナノろ過(Nanofiltration; NF)処理によって果汁から安息香酸(分子量:122)の一部を、分子量134以上の有機酸、糖類、色素と分離することで回収する。また、適切なNF膜を選定することで安息香酸を高純度で回収できるプロセスを構築する。

成果の内容・特徴

  • NF膜は安息香酸の分子量や膜の洗浄性などを考慮して、分画分子量200前後、NaCl除去率50 %前後の膜から選定する。ろ過装置にバッチ式平膜テスト装置C60F(日東電工(株))等を用いて清澄化クランベリー果汁のろ過試験を行い、透過流束および各成分の阻止率によってNF膜毎の分離特性を評価する。
  • 安息香酸と糖類など、その他の成分との分離効率の良い(阻止率に差のある)NF膜7種を用いて、pHを 2.5、3.5および4.5に調整したクランベリー果汁のろ過試験を行い、最適なpH条件を明らかにする(図1)。
  • 安息香酸を分離可能なNF膜(NFT50、Desal-DK)を用いて、模擬液((1)安息香酸(分子量: 122)100 ppm、(2)グルコース(分子量: 180)4.5 %、(3)リンゴ酸(分子量: 134)1.0 %および(4)クエン酸(分子量: 210)3.0 %)の各成分の分離特性を調査する。この結果を基に安息香酸を精製(回分濃縮)する際のろ過状況を濃縮係数(CF; Concentration Factor)から透過流束(Jv)を求める数学モデルを作製する(図2)。
  • この数学モデルから、NFT50膜ではpH 2.5のクランベリー果汁12 Lから4MPaの操作圧力で回分濃縮すると、140分でCF=3.0(3倍濃縮)となり、原料中の安息香酸は83 %が透過液に回収されると試算できる。
  • 透過液に回収される安息香酸の純度を向上させるため、再度NF処理を行うことで糖類や有機酸は除去される。この2回目のNF処理の際に、供給液のpHを水酸化ナトリウムにより2.8(原液)から4.5に調整すると安息香酸の純度はさらに向上する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 分子量の近い成分を分離するには、NF膜の選抜が重要となる。膜性能は種類により異なるため、スクリーニングには異なるメーカーのNF膜も用意することが望ましい。
  • 2段階NF処理では1回目のNF処理でpH調整しないため、濃縮液はクランベリー製品製造にダイレクトに利用でき、透過液はpH調整後の2回目のNF処理で安息香酸を高純度で回収できる製造プロセスとなる。
  • クランベリー圧搾残渣にも安息香酸は含まれるため、残渣からの安息香酸の抽出法を検討することで原料コストを低減できる。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:先端技術を活用した流通・加工利用技術及び評価技術の開発
  • 中課題整理番号:330c0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(国連大学)
  • 研究期間:2006~2014年度
  • 研究担当者:?原昌司、鍋谷浩志
  • 発表論文等:
    1)Dat L. et al. (2012) Food Sci. Tec. Res. 18(1):7-15
    2)鍋谷ら「抗菌保存料の製造方法」特許第5046228号(2012年7月27日)