ESRスピントラップ法による油中ラジカルの簡易・迅速計測

要約

ESRスピントラップ法を利用して、油中に存在する活性酸素種の計測法開発を行う。油に光照射して発生する過酸化物由来のラジカルをESRスピントラップ法で同定定量することにより、POV、AV法と同様に、油の加熱酸化を評価できる可能性がある。

  • キーワード:ESR、スピントラップ法、ラジカル、油、酸化
  • 担当:加工流通プロセス・先端流通加工
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品安全研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食品の加工や調理はラジカルの発生を伴う。発生したラジカルのうち、一部は安定なラジカルとして長期間存在するが、大部分のラジカルは食品成分と化学反応を引き起こして、酸化や腐敗などの品質変化に関与する。油の酸化は味、香り、栄養価値など品質の劣化を伴い、さらには人体に有害な作用を及ぼすため、過酸化物価(POV)や酸価(AV)法による酸化評価の基準が定められている。本研究は、POV、AV法よりも簡便かつ迅速にわずかな酸化を評価する計測法開発を目指し、ESRスピントラップ法による油中ラジカルの計測を試みる。

成果の内容・特徴

  • 本研究は、ESRスピントラップ法を利用して簡便かつ迅速に油中ラジカルの計測を行う。3種の食用油(オリーブ油、ナタネ油、綿実油)を200μl採取して、ラジカル捕捉剤PBNを溶解、油を入れたディスポセルをESRにセットして光照射直後に1分間計測する。加熱油、非加熱の油、両者へ光照射して発生するラジカルを捕捉し、アダクトスペクトルとしてESRで観測する(図1)。
  • 一般的に酸化した油には過酸化ラジカル(ペルオキシラジカル(ROO・)とアルコキシラジカル(RO・))が生成される。そこで、過酸化ラジカルの標準スペクトルを利用して、2種のラジカルを同時観測した場合のシミュレーションスペクトルを作成する(図2)。このシミュレーションスペクトルと食用油のESRスペクトルを比較すると、両者のパラメータはすべて一致するので、油で観測したラジカルは2種の過酸化ラジカルであると同定できる。
  • 2種の過酸化ラジカルは、非加熱の油でも観測できる。ただし、加熱履歴がある油では明らかにラジカル発生量が増加する。
  • 非加熱から12時間加熱した油のESR信号強度と、同じ油のPOVおよびAVとの相関を検討する。例としてナタネ油の結果を図3に示す。各値は油の加熱時間増加とともに増大する。ESR信号強度は、POV、AVと非常に相関が高い。本測定法はPOV、AVと同様に食用油の加熱酸化が評価できる。

成果の活用面・留意点

  • 本測定は、少量(200μl)の油を短時間(1分間)で測定することができるため、POV、AVとの相関を得ることができれば、油酸化評価のスクリーニング検査として活用できる可能性がある。
  • ESRスピントラップ法による油の測定は先行研究例が非常に少なく、本成果は基礎的な内容となっている。測定、解析についてより適切な手法を検討する。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:先端技術を活用した流通・加工利用技術及び評価技術の開発
  • 中課題整理番号:330c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新需要)、委託プロ(嗜好性)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:亀谷宏美
  • 発表論文等:Kameya H. et al. (2013) J. Food Sci. Eng. 3:299-308