交流電界技術を用いた加工食品の高品質化

要約

野菜ジュースの殺菌や酵素失活のために交流高電界技術を用いると極短時間で高い殺菌効果が得られ、加熱による品質劣化も抑制される。また、開発した交流中電界技術による味噌の連続酵素失活処理が可能となり、高品質の出汁入り味噌が製造できる。

  • キーワード:電気的加工、果汁、野菜ジュース、味噌、殺菌
  • 担当:加工流通プロセス・先端流通加工
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

交流電界技術は、従来の加熱殺菌処理に比べて極短時間で高い殺菌効果が得られ、かつ熱変性による品質劣化が少ないことから、これまでレモン果汁等の酸性飲料の殺菌処理として実用化されている。近年消費が拡大している野菜ジュース等の野菜加工品についても、色や風味を保ち、機能性成分の損失を抑制するために交流電界技術の応用が期待されている。また、出汁入り味噌の酵素失活処理のためにこれまで電気的なバッチ加熱処理による技術を開発しているが、より大量の味噌を短時間で処理する方法が求められている。以上のことから、交流電界技術による弱酸性の野菜ジュース等の加工品に利用できる殺菌技術やより効率的な味噌の連続酵素処理技術等を開発する。

成果の内容・特徴

  • pH 5.5のスイカ果汁に大腸菌または枯草菌芽胞を接種し、2 mmの電極間に500~700 Vの電圧を0.01秒間印加して交流高電界処理(図1)を行うと、大腸菌では80 °C以上で1/10,000,000以下に、枯草菌芽胞では120 °Cで1/10,000以下に低減できる(図2)。また、従来加熱で枯草菌芽胞を失活させるような100 °C以上の加熱を行うと品質劣化が著しいが、交流高電界処理で120 °Cまで昇温させた直後は90°Cのものと差異がないだけでなく、48時間室温保持後は120 °Cで処理した方が90 °Cでの処理よりも香気成分が保持される。
  • トマト果汁に含まれる酵素ペクチンメチルエステラーゼ(PME)は、ペクチンを分解するため、沈殿発生の原因となる。0.01秒間の交流高電界処理および3秒間の温度保持では、温浴中で10分間加熱した従来加熱処理に比べて同処理温度で1/100の時間で失活する(図3)。交流高電界処理は短時間でPMEを失活するため、品質劣化を抑制しながら、分散安定性を高めることが可能となる。
  • 味噌に含まれる酵素フォスファターゼは、添加した出汁のアミノ酸を分解するため、出汁入り味噌の製造においては、失活させておく必要がある。連続的に酵素を失活させる目的で、100 mm間隔で同軸上に並べた7個のリング状電極間に200 Vの交流を印加し、電極内を通過する2秒間で味噌の温度を均一に昇温させる交流中電界処理を行った場合、5分間の加熱を行った従来のバッチ加熱処理と同程度の酵素失活効果が得られる(図4)。したがって、交流中電界処理を利用することにより、味噌の酵素失活に必要な加熱時間を大幅に短縮することが可能となるため、熱変性が少ない高品質の出汁入り味噌の製品化が期待される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:飲料メーカー、味噌業界、食品加工業者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  • その他:飲料メーカーでは5,000 L/hの連続処理が可能な交流高電界処理装置が導入されており、今後、弱酸性飲料への応用が計画されている。地域の公立試験場では、100 L/hの連続処理が可能な交流高電界処理装置の導入が進んでいる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:先端技術を活用した流通・加工利用技術及び評価技術の開発
  • 中課題整理番号:330c0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(中央味噌研究所)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:植村邦彦
  • 発表論文等:
    1) 植村邦彦ら(2014)日食科工誌、61(2);95-99
    2) 植村邦彦ら(2015) Food Science and Technology Research, 21(1);7-11
    3) 植村「食品の加熱処理方法」特願2013-155529(2013年7月26日)