リンゴプロシアニジンは解糖系の阻害により T細胞の機能を抑制する
要約
多くの免疫抑制剤の作用機序と異なり、リンゴプロシアニジンオリゴマーは解糖系の働きを阻害することによりT細胞の機能を抑制する。よって、食品の免疫調節機能の検索に、T細胞の解糖系の働きを指標として用いることが可能である。
- キーワード:リンゴ、プロシアニジン、免疫抑制、解糖系
- 担当:食品機能性・生体防御技術
- 代表連絡先:電話 029-838-7991
- 研究所名:食品総合研究所・食品機能研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
カテキン・エピカテキンの重合体の混合物であるプロシアニジンは、心血管疾患、癌、アレルギー、自己免疫疾患、細菌感染などへの有効性が報告されている。プロシアニジンは様々な農作物に含まれているが、リンゴはヒトのプロシアニジンの主な摂取源の一つである。そこで、健康の維持増進に役立つプロシアニジンの適切な活用、およびプロシアニジンの健康機能性による様々な農作物の付加価値向上に資する情報を得ることを目指し、リンゴプロシアニジンの免疫機能に及ぼす影響とその作用機序について検討する。
成果の内容・特徴
- 5量体のリンゴプロシアニジンは、解糖系に依存する細胞増殖を強く抑制するが、電子伝達系に依存して産生され、細胞増殖を誘導するサイトカインIL-2産生は抑制しない(図1)。
- 5量体のリンゴプロシアニジンは、ヘルパーT細胞において解糖系に強く依存するIFN-γ、および解糖系の最終産物であるL-乳酸の産生を抑制する(図2)。
- すなわち、IL-2を抑制する多くの免疫抑制剤と異なり、プロシアニジンによる免疫機能の抑制は解糖系の働きの抑制によるものと考えられる。
成果の活用面・留意点
- IL-2産生だけでなく、糖代謝・解糖系の働きを評価することで、免疫修飾機能を持つ食品をさらに広汎に見出すことが期待できる。
- 免疫抑制剤であるラパマイシンが解糖系の抑制を介して免疫機能抑制だけでなく寿命延長効果を示すことなど、解糖系は免疫機能だけでなく老化とも強く関連するという報告がある。本成果は、プロシアニジンがラパマイシンと同様に、解糖系の抑制を介して、免疫活性を抑制するという機序を有することを示しており、寿命延伸効果についても興味が持たれるところである。
- 重合度の高いプロシアニジンは一般に収れん性を持ち、渋味や苦味を呈するため、農作物においてプロシアニジンによる健康機能を向上する試みにあたっては、食味に悪影響がない重合度と含有量を勘案する必要がある。
具体的データ
その他
- 中課題名:生体防御作用に関する健康機能性解明と有効利用技術の開発
- 中課題整理番号:310c0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2015年度
- 研究担当者:後藤真生、若木学、庄司俊彦、石川祐子
- 発表論文等:Goto M. et al. (2015) Molecules. 20(10): 19014-19026