ヒト胃消化シミュレーターを利用した米飯の膨潤・微細化プロセスの可視化

要約

ヒト胃消化シミュレーターを用いることにより、定量的に模擬されたぜん動運動が駆動している状態下で米飯の膨潤・微細化プロセスを直接観察できる。玄米飯よりも白米飯の方が速やかに膨潤・微細化する。

  • キーワード:ヒト胃消化シミュレーター、米飯粒子、膨潤・微細化、可視化、ぜん動運動
  • 担当:食品機能性・生体防御利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品機能性・食味・食感評価技術
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

胃消化は、ヒトが摂取した食品の主要な消化プロセスの一つである。食品の胃消化において、胃壁のぜん動運動に駆動される物理的消化は、胃壁から分泌される消化液に化学的消化と同様に重要なプロセスである。しかしながら、ヒト胃の物理的消化が食品粒子の挙動に及ぼす影響に関する知見は少ない。近年開発されたヒト胃消化シミュレーター(GDS, Gastric Digestion Simulator)は、胃壁に起きるぜん動運動を定量的に模擬しており、なおかつ食品粒子の消化挙動も直接観察できる。そこで、穀物食品の一種である米飯のin vitro胃消化挙動についてGDSを用いて観察・解析する。

成果の内容・特徴

  • GDSに具備されているぜん動運動は、ヒトの胃壁に起きるぜん動運動の進行速度、幅、振幅等の文献値を参考にして設定されている。GDSを用いたin vitro消化試験は、ヒト胃の下部である幽門部を模した容器(図1)の中であらかじめ37°Cに保温された人工胃液(200 mL)に人工唾液(30 mL)と混合した米飯試料(60 g)を加えることで開始される。タンパク質消化酵素であるペプシン(豚由来)を含む人工胃液のpH については、1.3に設定する。
  • GDSを用いた白米飯(コシヒカリ)の膨潤・微細化プロセスの観察結果を図1に示す。白米飯粒子はin vitro消化試験の開始後に急速に膨潤し、30分後の体積は開始直後の約1.7倍に達する。この時、白米飯粒子の微細化につながる破断や糊状物質の放出による上層部の白濁も起こる。白米飯粒子はその後緩やかな膨潤を続ける一方で、白米飯粒子の微細化は消化試験終了時(180分)までさらに進行し続ける。
  • GDSを用いた玄米飯(コシヒカリ)の膨潤・微細化プロセスの観察結果を図2に示す。玄米コースを利用して炊飯した玄米飯粒子は白米飯粒子と比べてはるかに緩やかに膨潤し、180分後の体積は開始直後の約1.3倍に留まる。また、in vitro消化試験中における玄米飯粒子の微細化、および糊状物質の放出も緩やかである。この時、ぬか層の割れや剥離も観察される。GDSを用いた玄米飯の膨潤・微細化が緩やかになる理由は、玄米飯表面のぬか層の存在によるものであると推察される。
  • GDSを用いた白米飯と玄米飯の膨潤・微細化プロセスの違いは、ブタを用いたin vivo胃消化試験結果(Bornhorst et al. (2013) Food Biophys. 8: 137-150)と類似している。

成果の活用面・留意点

  • 定量的なぜん動運動を備えるGDSを用いることにより、米飯粒子の膨潤・微細化ならびに糊状物質の放出の様子を観測することができる。
  • 咀嚼による米飯粒子の微細化を考慮した上で、GDSを用いた米飯のin vitro消化試験を実施することが今後求められる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:食味・食感特性の評価法及び品質評価情報表示技術の開発
  • 中課題整理番号:310d0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(助成金)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:小林功、植村邦彦、王政(筑波大)、市川創作(筑波大)、神津博幸(筑波大)
  • 発表論文等:Wang et al. (2015) Food Res. Int. 72: 16-22