果柄の離層形成を制御するリンゴの遺伝子

要約

リンゴ遺伝子MdJbを、トマトの果柄に離層を形成しない変異体であるjointless系統に遺伝子組換えにより導入すると、離層形成が回復し、正常な脱離反応も生じる。したがってMdJbはリンゴの果柄離層形成を制御している遺伝子であることが予想される。

  • キーワード:リンゴ、トマト、落果、離層、ジョイントレス
  • 担当:加工流通プロセス・食品生物機能利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品バイオテクノロジー研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果実は果柄を介して植物本体に着生しており、「離層」は果実が植物体から脱離するための組織として、果柄と植物体の境界に形成される。成熟期になるとこの離層組織での接着が弱くなり、果実が脱離しやすい状態になる。離層での容易な脱離は、農産物の収穫を容易にする一方で、強風等の物理的な影響により収穫前落果を起こしやすく商品価値を著しく低下させる一因ともなる。トマトではこの離層が形成されなくなる変異が数種類あり、その原因遺伝子の特定も進んでいる。ここでは、他作物での離層形成の制御を可能とすることを目的として、リンゴで離層形成に関わる遺伝子の特定に資する情報を得ることを試みた。

成果の内容・特徴

  • トマトの離層形成に関与する遺伝子JOINTLESS(J)と配列に相同性の高い遺伝子として、リンゴの花柄部で発現する遺伝子には、MdJaおよびMdJbが存在する。
  • トマトにおいて、J遺伝子の一部に欠失が生じて離層が形成されない変異体(jointless; j)に対して、MdJaまたはMdJaを遺伝子組換えにより強制的に発現させると、MdJaでは離層形成が回復するのに対し、MdJaでは十分な回復が見られない(図1A)。
  • トマトの花柄において形成される離層は、開花期に花を切り落とすと脱離反応を示す。j変異体ではこの反応は起こらないが、MdJaを発現させることより形成された離層は、野生型の花と同様に花の切除による脱離反応を示す(図1B)。
  • 花柄において脱離が起こる際には、ポリガラクチュロナーゼ(TAPG)やセルラーゼ(Cel)等の遺伝子発現が急上昇する。j変異体で失われるこれらの遺伝子発現変化は、MdJbの発現により回復するがMdJaの発現では回復しない(図2)。
  • 以上から、リンゴ遺伝子であるMdJaはトマトのJ遺伝子の機能を相補する能力があり、リンゴにおいても花(果)柄離層機能の制御的な役割を果たしている可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • リンゴのJ相同性遺伝子が、実際に離層形成に関与しているかどうかは、今後、リンゴ植物体での機能解析で検証する必要がある。
  • トマトにおいてMdJaを発現させることより形成された離層は、花の直下に形成されるが、これは恒常的に強発現させた影響であると考えられる。
  • リンゴにおいてMdJa遺伝子に変異が生じることにより、花(果)柄離層に有用な形質が付与されることが期待される。具体的には、離層形成が阻害されるような変異が生じれば強風でも落下被害を低減できる、あるいは逆に離層形成が強く表れるような変異では、摘果管理や収穫時の労力削減に寄与する可能性がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:新需要創出のための生物機能の解明とその利用技術の開発
  • 中課題整理番号:330d0
  • 予算区分:交付金、イノベーション創出、農食事業
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:伊藤康博
  • 発表論文等:
    1) Nakano et al. (2012) Plant Physiology 58(1):439-450
    2) Nakano et al. (2013) BMC Plant Biology 13:40
    3) Nakano et al. (2014) Journal of Experimental Botany 65(12):3111-3119
    4) Nakano et al. (2015) Plant and Cell Physiology 56(6):1097-1106
    5) 伊藤、中野(2014) New Food Industry 56(8):25-32