大脳皮質壊死症モデルにおけるチアミン投与の効果

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要約

大脳皮質壊死症モデルのめん羊について,チアミン投与の脳波,臨床症状および生化学所見を検討した。末梢血中のチアミン関連酵素活性値はチアミン投与後の短時間で正常値を示したが,脳波および臨床症状の回復には長時間を要した。

  • 担当: 家畜衛生試験場 研究第3部 病態生理研究室
  • 連絡先:0298-38-7810
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛,めん羊
  • 分類:指導

背景・ねらい

チアミン(ビタミンB1)の欠乏に起因する大脳皮質壊死症は,神経症状を主徴とする反芻動物の疾病である。チアミン投与後の病態変化について検討した報告は少ない。そこで,チアミン投与後の機能および代謝経路の回復について明らかにするために,実験的本症のめん羊にチアミンを投与し,その結果を検討した。

成果の内容・特徴

チアミン拮抗薬であるアンプロリウム(600mg/kg)を投与して大脳皮質壊死症を発症させためん羊12頭について,1回のフルスルチアミン(FT,10mg/kg,Alinamin-50,Takeda)投与後,14日間の脳波,臨床,生化学検査を行った後,病理学的に検索した。

  • 脳波異常,食欲異常,運動失調,起立不能または痙攣が発現した時点にFTを投与した(表)。FT投与後,脳波の異常波形や徐波は一時増強したが,数時間後に減少した。運動失調が発現する前のFT投与では,脳波および食欲は24時間以内に正常に回復した。起立不能または痙攣発現時のFT投与では,痙攣は1時間以内に停止し,5時間以内に起立可能となったが,FT投与後1.5時間で死亡した例もあった。運動失調が発現してからのFT投与では,投与時の症状の程度と回復までの日数との関連性は低く,食欲異常や口唇の麻痺が残る例があった。
  • 脳波の異常が発現した時点に,血中チアミン濃度および赤血球トランスケトラーゼ活性値の現象ならびにTPP効果の増加が明らかであった。運動失調が発現してから血中乳酸,ピルビン酸およびグルコースの増加を認めた。これらの生化学検査値は,FT投与後4時間には正常値に回復した。
  • FT投与後14日では大脳皮質のチアミン濃度は正常値を示した。FT投与後1.5時間で死亡した個体の大脳皮質のチアミン濃度も正常値に近かった。
  • FT投与後14日の大脳の蛍光斑は,投与後1.5時間で死亡しためん羊の大脳に比べて軽度または消失していた。

成果の活用面・留意点

大脳皮質壊死症において,早期のチアミン投与が効果的であった。しかし,運動失調が現れてからの投与では,症状の改善に長時間を要したり,効果のない場合があることが明らかになった。このことは,治療の指標になりうる。

具体的データ

表 大脳皮質壊死症モデルめん羊におけるフルスルチアミン投与直前の脳波・臨床所見および回復までの日数

写真 大脳皮質壊死症を発症し、起立不能となっためん羊

その他

  • 研究課題名:牛の大脳皮質壊死症の治療後予後判定基準の作成
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6年度(平成4年度~6年度)
  • 発表論文等:1) J.Vet.Med.Sci,56(3):481-485(1994).
                      2) J.Vet.Med.Sci,56(3):573-576(1994).
                      3) 第118回日本獣医学会講演要旨集,p.104,S22-3,(1994).
                      4) 第118回日本獣医学会講演要旨集,p.104,S22-4,(1994).