化学合成した口蹄疫ウイルス3D蛋白質断片ペプチドによる診断法の開発

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要約

近年特に著しい進歩を遂げたペプチドの化学合成法を応用して,口蹄疫ウイルスを用いずに,口蹄疫の侵入防止に有効な診断法の開発をめざして有用ペプチドの作出を行い,タイ国においての海外実証試験により反応性の評価を行った。

  • 担当: 家畜衛生試験場 海外病研究部 理化学研究室
  • 連絡先:0423-21-1441
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛,豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

海外から侵入する危険性の高い家畜伝染病,即ち海外悪性伝染病の中で最も重要である口蹄疫ウイルス(FMDV)の国内導入はいまだ行われておらず,現在のところ病原体を使用した直接的な試験・研究は実施不可能である。そこで,FMDVに関連した部分ペプチドを化学合成し,口蹄疫の診断が可能か否かを検討した。7種類の血清型を持つFMDV全てに共通といわれているRNA依存RNA合成酵素である3D蛋白の比較的親水性のアミノ酸部位(図1下線)の12種類のペプチドをF-moc固相合成法により試作し,現在でも口蹄疫の発生があるタイ国の口蹄疫ワクチンセンターにおいて感染経過血清との反応性の検討を行った。

成果の内容・特徴

  • 図1にO型FMDV3D蛋白の全アミノ酸配列及び合成部位を示す。ペプチドの合成は,合成しようとするペプチドのカルボキシル端のアミノ酸樹脂結合物に順次,アミノ末端側へ一個ずつα位アミノ基を9-Fluorenylmethoxy-carbonyl(F-moc)で保護したアミノ酸を目的ペプチドが完成されるまでN,N'-Dicyclohexylcarbodi imideによる脱水縮合反応を繰り返した。側鎖に官能基をもつアミノ酸については,適宜必要な保護基により側鎖保護したものを用い,特にR(Arginine)の導入については,側鎖グアニジノ官能基を2,2,5,7,8-Pentamethyl chroman-6-sulfony(PMC)基で保護した,合成後の脱保護の容易な新しいF-moc-Arg(Pmc)-OHを使用した。作成したペプチドは,単体,家兎及び馬グロブリンと共有結合したものについて検討したところ,馬グロブリン結合物が優れた反応性を示した。
  • これらの合成ペプチドと抗牛IgG(γ)ペルオキシダーゼ標識抗体を用いた間接酵素抗体法による成績を以下に示す。O型FMDVチャレンジを受けた#203牛の感染9週後の血清との反応では,12種類のぺプチドの中で#5,7,及び11のペプチド抗原が優れた反応性を示した(図2)。陽性対照とした天然3D蛋白部分精製抗原では,1:20希釈時で1.17のOD値が得られた。図3には,実験感染を行った#200の牛の感染経過血清についてのOD値の推移を示す。何れのペプチド抗原を使用した場合でもその反応はほぼ同様であり,感染2-4週後に最高値を示し,以後次第に減少する傾向がみられた。また,プレートを種々の血清でブロックしても,抗原を全くコートしないウェルに若干の偽反応が見られたが,これは第一及び第二抗体の希釈を緩衝液に代わって100%馬血清を用いることによって抗血清1:20希釈でもほぼ完全に防止することが可能となり,比較的低いOD値であってもその数値の信頼性は高いものと考えられた。

成果の活用面・留意点

今回の検討によってFMDVの3D蛋白についての部分ペプチドの評価を行い,合成ペプチド抗原の有用性が示唆されたが,これらの部分については,近縁のウイルスと共通する部分があるので偽反応等に付いて,多数の弱陽性を含む陽性~境界域~陰性血清を用いた詳細かつ慎重な検討を行う必要がある。また,3D蛋白部位以外のペプチドの抗原性についての検討も重要と思われる。

具体的データ

図1 O型FMDV-3 D蛋白質のアミノ酸配列と合成したペプチド

図2

図3

その他

  • 研究課題名:口蹄疫ウイルスに関連する有用ペプチド開発の基礎研究
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成4年度~平成5年度
  • 発表論文等:第41回日本ウイルス学会で口頭発表