ベネズエラ糞線虫のin vitroにおける発育及び熱ショック蛋白質の生産

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

ベネズエラ糞線虫の感染幼虫は,培養温度を25°Cから37°Cに変化させることによって移行幼虫に発育した。また,この発育の間に熱ショック蛋白質の産生が確認された。

  • 担当: 家畜衛生試験場 研究第一部 原虫第2研究室
  • 連絡先:0298-38-7751
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

糞線虫属の線虫は宿主特異性が高く,本来の宿主以外で虫体を発育させることが困難であることから,糞線虫症の研究はベネズエラ糞線虫症の研究はベネズエラ糞線虫-ラットのモデル感染系を利用して行われている。
糞線虫の体内への侵入は,外界の自由生活期である感染幼虫の経皮感染によって成立する。感染時,虫体は2つの環境にさらされ相当なストレス状態におかれているにも関わらず,なんらの損傷もなく環境の変化に巧みに適応し発育している。今回は,感染時における虫体の発育機構の一端を明らかにすることを目的として,感染幼虫から移行幼虫へのin vitro培養を試み,形態変化の間に産生される蛋白質について研究した。

成果の内容・特徴

  • 虫卵より温度25°Cで発育させた感染幼虫を37°Cのダルベッコ改変イーグル培溶液で16時間培養したところ,虫体の形態は移行幼虫の特徴的変化である頭部の球状化を示した(図1),さらに,形態変化の認められた感染幼虫と,感染ラットから回収した移行幼虫を用いて,構成蛋白質及び抗原性について検討したところ,両者は,ほぼ同一性状であった。これらのことから,温度25°Cから37°Cへの温度変化は感染幼虫から移行幼虫への発育に重要な役割を果たしていることが分かった。
  • 35S-メチオニンを用いて形態変化の間の酸性蛋白質を検討したところ,熱ショック蛋白質70及びいくつかの低分子熱ショック蛋白質の産生が確認された(図2)。感染幼虫の熱ショック蛋白質産生は,虫体が環境の変化に巧みに適応して起こすことに深く関与するものであると考えられた。

成果の活用面・留意点

今回確立した感染幼虫から移行幼虫へのin vitro培養系は,感染時の虫体発育を宿主を用いずに再現できることから,今後の宿主-寄生虫相互間系を解明する上で有効であると考えられた。また,各種侵襲に対して生物が産生する熱ショック蛋白質が,感染幼虫から移行幼虫への発育過程で確認されたことは,糞線虫の発育・分化を考える上で非常に興味ある知見であった。

具体的データ

図1 培養後16時間における感染幼虫の形態変化

図2 温度25度(A)及び37度(B)で16時間培養した感染幼虫の産生蛋白質のオートラジオグラム

その他

  • 研究課題名:糞線虫2種に対するスナネズミの感受性の検討
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成5年度(平成3年度~平成5年度)
  • 発表論文等:1) Strongyloides venezuelensis:感染幼虫から体内移行幼虫
                      への発育に関与する蛋白質とその性状,
                      第118回日本獣医学会講演要旨集,p.156(1994).
                      2) Development in vitro of free-living infective larvae to
                      the parastic stage of Strongyloides venezuelensis by
                      temperature shift. Parasitolgy. 109:643-648. (1994).