化学発光によるウシ乳房炎の早期診断法の開発

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要約

乳房への細菌感染とほぼ同時に乳汁中に浸潤してくる貪食白血球に着目し,それが放出する化学発光量を判定指標とした乳房炎早期診断法を開発した。

  • 担当:家畜衛生試験場 病態研究部 病態生理研究室
  • 連絡先:0298(38)7810
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 対象:普及

背景・ねらい

ウシの乳房炎は,罹りやすい上に極めて治りにくい病気のため,世界的に共通して家畜の最難治疾病の一つとされている。防除できない理由の一つとして,乳房炎の感染初期を精度高く,且つ簡便に診断する手法が確立されていない点が挙げられる。そこで,感染とほぼ同時に乳汁中に浸潤してくる貪食白血球に着目し,それが放つ化学発光量を判定指標とした乳房炎早期診断法を開発する。更に,その簡易化を目的とした診断装置の開発を試みる。

成果の内容・特徴

  • 乳房炎発症牛の乳汁化学発光能(乳汁CL能)の動態
    供試牛は,公共施設で飼育されている乳用ホルスタイン種35頭を用いた。従来までのロータリーミルキングパーラ方式からパラレルミルキングパーラ方式に搾乳方式を変えた後に,CMT変法によって乳房炎陽性と診断された牛の乳汁と陰性と診断された乳汁のCL能の動態を比較した。乳汁CL能の測定には試験研究用のCL能測定器(ベルトールド社,Multi-Biolumat, LB9505 C)を用いた。その結果,乳房炎非発症牛群(CMT変法陰性牛群)では実験全期間を通じて乳汁CL能はほぼゼロであった。発症牛群(CMT変法陽性牛群)では搾乳方式変換後約15日目にCMT変法が陽性となった。一方,乳汁CL能は変換後8日目には上昇を始め,本診断法の陽性判定基準値である1x106CPMを越える値となった。15日目では更に大きく上昇した。
  • 乳房炎診断装置の試作とそれによる乳房炎診断
    試験研究用CL能測定器による乳汁CL能のデータと測定機の設定条件や測定感度等との相関性を検討し,酪農現場用としてポータブル方式で,且つ迅速・簡易測定が可能な乳汁CL能測定器(乳房炎診断装,TT-L100,(有)トッケン)を試作した。 酪農農家の乳牛47頭を用いて乳房炎診断装置による乳房炎診断を行い,従来の乳房炎診断法である乳汁体細胞数(蛍光光学方式)及びCMT変法値との比較検討を行った。その結果,乳汁CL能の上昇は約10万個/ml以上の乳汁体細胞数の増加と良く相関した。このことから,乳汁化学発光法が乳房炎診断手法として有効であることが示された。また,乳汁体細胞数が約50万個/ml以上でないとCMT変法では乳房炎陽性と判定されなかったが,本装置では約10万個/mlから乳汁CL能の上昇が始まった(図2)。このことから,本装置で感染初期の乳房炎検出が可能であることが示された。

成果の活用面・留意点

本診断法は,細菌侵入とほぼ同時に乳汁中に浸潤して来る貪食白血球の殺菌能力を測定する方法なので,乳房の細菌感染を極めて早い段階で検出できる。従って,乳房炎予備牛や潜在性乳房炎牛の摘発に威力を発揮すると思われる。

その他

  • 研究課題名:サイトカイン投与家畜の貪食白血球の機能発現への影響
  • 予算区分:畜産対応研究(サイトカイン),交流共同研究
  • 研究期間:平成9年度~平成14年度
  • 発表論文等:
    1.乳房炎診断装置,特許第2995205号(1999)
    2.Science & Technonews Tsukuba, 50 : 55-56 (1999)
    3.第128回日本獣医学会講演要旨集,p.256(1999)