ペスチウイルスの遺伝子情報に基づく分類法の確立

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要約

豚コレラウイルスならびに牛ウイルス性下痢ウイルスを中心としたペスチウイルスの塩基配列の比較から分子系統樹を作成し,ペスチウイルスの遺伝子型による分類法を確立した。

  • 担当:家畜衛生試験場 海外病研究部 免疫研究室
  • 連絡先:042(321)1441
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 対象:研究

背景・ねらい

ペスチウイルス属(フラビウイルス科)には,豚コレラウイルス(CSFV),牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)及び羊のボーダー病ウイルスが属する。 これらのウイルスは多様な生物学的性状に加え,多岐にわたる抗原性や病原性を示すことが知 られている。しかし,ウイルスの分類に関しては血清学的性状に基づいた解析は行われているが,遺伝子情報に基づくウイルス株の分類は行われていない。そこ で,野外で分離されたウイルス株を中心にその遺伝子情報をもとに分子系統樹解析を行い,遺伝子型によるウイルス分類法を確立する。

成果の内容・特徴

  • RT-PCR法を用いて増幅したCSFV各株の5'非翻訳領域の遺伝子の塩基配列を決定し,ウイルス株間の相同性を比較した。その結果,ウイルス株間のホモロジーは92.5~100%であった。これらの遺伝子情報をもとに作成された分子系統樹から,従来型(CSFV-1,CSFV-2)とは異なる新しい遺伝子型のウイルス株が存在することが判明した( 図1a )。
  • BVDV各株の5'非翻訳領域の遺伝子の塩基配列を同様に解析した結果,ウイルス株間のホモロジーは73.8~100%であり,分子系統樹から従来型であるBVDV-I (BVDV-IaとIbに細分)と,従来型とは病原性,抗原性の異なる新型のBVDV-IIに区分された(図1b)。
  • CSFV株に関しては,血清学的性状を用いた従来の分類(H亜群,B亜群)と,今回の確立した遺伝子情報に基づくウイルス分類(CSFV-1,2,3)の比較を行なった。その結果,H亜群のウイルスはCSFV-1に,またB亜群のウイルスはCSFV-2に分類されるのもが多かった(表1)。

成果の活用面・留意点

ペスチウイルス5'非翻訳領域の分子系統樹解析は,新たに分離されたウイルス株の迅速簡便な遺伝子型の同定が可能であり,ペスチウイルス属すべての診断・疫学的解析に有用である。しかし,遺伝子型と抗原性状との関連を詳細に解析するためには,中和抗体の標的であるウイルス糖蛋白E2などの遺伝子解析をさらに行う必要がある。

具体的データ

図1 豚コレラウイルス(a)および牛ウイルス性下痢ウイルス(b)の分子系統樹

表1 豚コレラウイルスの抗原性による分類と遺伝子型の比較

その他

  • 研究課題名:遺伝子工学的手法を用いたペスチウイルスの分子系統樹解析
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成11年度(平成8年度~平成11年度)
  • 発表論文等:
    1.第125回日本獣医学会講演要旨集, p.137 (1997)
    2.European Symposium for Control of BVD-Virus Infection in Cattle(ノルウ ェー), p.19 (1997)
    3.日本獣医師会雑誌, 50 : 639-644 (1997)
    4.Vet. Microbiol., 65 : 75-86 (1999)