牛小型ピロプラズマ病の貧血発現時における赤血球膜表面ホスファチジルセリンの動態

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要約

牛小型ピロプラズマ病の貧血機構の解明を行うために,赤血球膜表面へのホスファチジルセリン(PS)の発現を調べた。PSは赤血球酸化で膜表面へ発現することが示され,また実験感染牛では貧血の発現に伴い赤血球膜表面でのPSの増加が認められた。

  • 担当:家畜衛生試験場 北海道支場 臨床生化学研究室
  • 連絡先:011(851)5226
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 対象:研究

背景・ねらい

牛の小型ピロプラズマ病は,我が国の放牧牛に最も大きな経済的損失を与えている疾病であり,発病牛における血液所見の特徴は貧血と黄疸である。発病は貧血の状態に依存していると考えられることから,貧血機構と病態の解明が求められている。本研究では本病発病牛の赤血球膜細胞表面の変化を調べるために,膜リン脂質phosphatidylserine(PS)の発現動態について解析した。

成果の内容・特徴

  • PSは健常な細胞膜では内側に極在しているが,膜傷害が起きると膜リン脂質の不斉性が失われ細胞表面へ露出してくる。酸化剤を用いて牛赤血球をin vitro傷害させた場合の膜表面へのPS発現をフローサイトメータを用いて解析した結果,低濃度のH2O2処理や未処理ではPS発現はみられなかったが,酸化剤2,2'-Azobis(2-amidinopropane) Dihydrochloride(AAPH)あるいは2.4%以上のH2O2を反応させた場合にはPS発現が増加した(図1,表1)。
  • 実験感染牛の感染経過で赤血球を採取し,1.5% H2O2処理(弱い酸化 的ストレス負荷)および未処理赤血球のPS発現の解析を行った。貧血の発現前にはH2O2処理の有無に関わらず,ほとんどPS発現がみられなかったのに対し ,貧血の発現前後にはH2O2処理および未処理両者の赤血球で,貧血の程度に応じたPS発現の増加がみられた。またH2O2処理の赤血球では,PS発現の時期が未処理のものよりも早い傾向にあった(図2)。PS発現の最大値は,H2O2処理:約20%,未処理約:7%(いずれも実験牛5頭の平均値)を示した。
  • 以上の成績から,赤血球膜に酸化傷害が起きるとPSが膜表面へ露出することが明らかとなった。また本病の貧血発現時には,赤血球は酸化ストレスによる傷害をうけやすい状態になっており,赤血球膜の脂質二重層の非対称性が崩れて膜構造に変化を来していることが示唆された。

成果の活用面・留意点

PSの細胞表面への露出は,貪食細胞による傷害・老化赤血球の認識機構のひとつとして注目されている。今後の研究で傷害赤血球の認識・排除機構を明らかにすることが,本病による貧血機構の解明につながる。

具体的データ

図1 酸化剤によるホスファチジルセリンの発現

表1 酸化剤によるホスファチジルセリン発現率の変化

図2 感染経過にともなうホスファチジルセリン発現率の推移

その他

  • 研究課題名:ウシ小型ピロプラズマ病発病に及ぼす活性酸素種を中心とした生理活性物質の役割
  • 予算区分:畜産対応研究(自給飼料基盤)
  • 研究期間:平成11年度(平成10年~12年)
  • 発表論文等:
    1.17th International Conference of the World Association for the Advancement of Veterinary Parasitology(1999)
    2.26th World Vet Congress 1999,p.97(1999)
    3.第128回日本獣医学会講演要旨集,p.254(1999)
    4.第129回日本獣医学会講演要旨集,p.154(2000)