牛初期胚の体外発生におけるアクチビンAの作用
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要約
ウシ体外受精卵の体外発生培地にアクチビンAを加えると,胚の発生率が向上する。アクチビンAは8細胞期までに起こる胚の一時的な発生休止を改善して,胚発生を促進すると考えられる。
- 担当:家畜衛生試験場 病態研究部 保健衛生研究室
- 連絡先:0298 (38) 7784
- 部会名:家畜衛生
- 専門:診断予防
- 対象:乳用牛・肉用牛
- 対象:研究
背景・ねらい
哺乳動物胚の発生過程において,様々なサイトカインやそのレセプターの遺伝子が発現している。着床前の初期胚の発生過程では母体の卵管,子宮および胚自身から産生されるサイトカインが,オートクリン/パラクリン様式により胚細胞に作用して,正常な胚発生を支持しており,サイトカインの欠如や過不足は,胚の死滅をもたらすと考えられる。そこで,ウシ体外成熟・体外受精由来胚を用いて,卵胞,卵管,子宮などで産生されるサイトカインの1つであるアクチビンAが胚発生に及ぼす影響について解析した。
成果の内容・特徴
- 組換えヒトアクチビンAを発生培地へ添加するとウシ1細胞期胚が桑実胚および胚盤胞へ発生する割合は,濃度依存的に増加した( 図1 )。
- アクチビン結合タンパク質であるホリスタチンは,発生培地へのアクチビンA添加の有無にかかわらず桑実胚および胚盤胞への発生率を低下させた( 図2 )。アクチビンAの発生促進効果およびホリスタチンの発生抑制効果は,胚が9~16細胞期に達する以前に培地へ添加した場合に認められた。
- 微速度撮影法による発生のカイネティクスの解析から,ウシ胚の体外発生では,細胞分裂が一時的に休止する“lag-phase”が 4~8細胞へ分裂する過程に起こり,lag-phaseの開始細胞数が多く,開始時間が早く,期間が短い胚ほど,その後の発生能が高いことを明らかにした。
- アクチビンAは,lag-phaseの開始細胞数を増やし,期間を短縮した。つまり,アクチビンAは,おもに8細胞期までの胚に作用し,ウシ胚のlag-phaseの程度を改善することによ り,胚の発生能を向上させると考えられる。
- 遺伝子発現の解析から,ウシ胚は少なくとも1細胞期から桑実胚までの間,インヒビン/アクチビンβAサブユニットのホモダイマーであるアクチビンAを産生しており,また,ウシ卵子および初期胚には,アクチビンIおよびII型レセ プターからなる機能的なアクチビンレセプターが存在することが示唆された( 表1 )。さらに,ウシ卵子および初期胚ではホリスタチン遺伝子の発現も認められ,ホリスタチンは,生理的にも内因性アクチビンAの作用を調節していると考えられた。
成果の活用面・留意点
体外発生培地にアクチビンAを加えることにより,胚の発生能を改善し,胚の死滅を軽減でき る。また,体外受精卵を用いて胚移植を行う場合,培養中の胚のlag-phaseを観察・解析して ,発生能力が高いと思われる胚を選別することで,受胎率の改善が期待される。
具体的データ



その他
- 研究課題名:初期胚でのサイトカイン関連遺伝子の発現制御技術の開発
- 予算区分:ゲノム関係研究(動物ゲノム)
- 研究期間:平成6年度~平成12年度
- 発表論文等:
1.Mol. Reprod. Dev., 45 : 151-156 (1996)
2.Theriogenology, 48 : 997-1006 (1997)
3.Biol. Reprod., 59 : 1017-1022 (1998)
4.Reprod. Fertil. Dev., 10 : 293-298 (1998)
5.J. Reprod. Fertil., 118 : 119-125 (2000)