カビの毒素フザレノンーXは細胞にアポトーシスを誘導する

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要約

穀物を汚染するカビの毒素の一つであるフザレノンーXの細胞毒性について,マウス胸腺細胞と培養細胞HL-60を用いて調べたところ,いずれの細胞もアポトーシスによって傷害されることが明らかになった。

  • 担当:家畜衛生試験場 飼料安全性研究部 上席研究官
  • 連絡先:0298(38)7819
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:生理
  • 対象:家畜類
  • 対象:研究

背景・ねらい

わが国の湿潤な気候では,麦類をはじめとする穀類にカビが発生しやすく,その毒素で汚染された穀物の摂取によって家畜や人の安全性が脅かされる危険性が潜在している。 麦の赤カビ病の原因菌であるフザリウムの作るトリコテセンマイコトキシン類は,家畜に下痢・食欲不振などの中毒症状や白血球減少など放射線障害に似た細胞傷害を起こす。すでに ,トリコテセンの一つであるフザレノン-X が,マウスの胸腺T細胞を傷害・減少させることを報告したが( 家畜衛生成果情報 No.8 ),このような細胞傷害がどのような様式と機序によるものかについて,マウスの胸腺細胞と培養株化細胞を用いて検討した。

成果の内容・特徴

  • フザレノン-X (FX)投与マウスの胸腺組織にTUNEL(TdT-mediated dUTP nick end-labeling)染色を行ったところ,対照マウスに較べ陽性細胞が著明に増数し,電子顕微鏡観察では,核クロマチンが凝縮を起こしたり断片化した胸腺細胞をとりこんだマクロファージが多数認められた( 図1 )。
  • FX投与マウスの胸腺細胞から DNA を抽出し,アガロースゲル電気泳動で調べたと ころ,180塩基対の倍数毎の断片化が認められた。また,培養した正常マウスの胸腺細胞にFXを添加しても同様に DNA の断片化が引き起こされた( 図2 )。以上から,FXはマウスの胸腺細胞にアポトーシスを誘導すると考えられた。
  • FXを添加して培養した胸腺細胞のアポトーシスは,カスパーゼ阻害剤のZ-Asp- CH2-DCB (Z-Asp)や Z-VAD-FMK を培地に共存させると強く抑制された。
  • FXは培養 HL-60 細胞(ヒト前骨髄性白血病細胞)にもアポトーシスを誘導した.このアポトーシスは,カスパーゼ8およびカスパーゼ3の酵素活性の上昇をともない( 図3 ), DNA 断片化に関わるエンドヌクレアーゼの阻害剤 ZnCl2 やカスパーゼ阻害剤 Z-Asp の添加で強く阻止された( 表1 )。これらのことから,FXが誘導するアポトーシスにはカスパーゼが関わっていることが明 らかになった。

成果の活用面・留意点

今回得られた成果により,穀物汚染マイコトキシンであるフザレノン-X の細胞毒性にはアポトーシスが関与していることがはじめて明かとなった。近年,他のマイコ トキシンにもアポトーシス誘導能があることが報告されており,今後マイコトキシンの毒作用の解明や制御に有益な資料となる。

具体的データ

図1 FX投与マウスの胸腺組織の電子顕微鏡写真

図2 FX添加培養したマウスの胸腺細胞におけるDNA断片化

図3 FXを添加培養したHL-60細胞におけるカスパーゼ活性の上昇

表

その他

  • 研究課題名:マイコトキシンの組織および細胞障害機構の検討
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度~平成10年度
  • 発表論文等:
    1.Miura,K., et al.: Induction of apoptosis with fusarenon-X in mouse thymocytes. Toxicology, 127 : 195-206 (1998)
    2.第124回日本獣医学会講演要旨集,p.28 (1997)
    3.第121回日本獣医学会講演要旨集,p.152 (1996)