パルスフィールド電気泳動によるMannheimia haemolytica 国内分離株の分子疫学的解析

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要約

M. haemolytica 血清型1型菌130株は、15種類の遺伝子型に分類される。また、調査各県では複数の遺伝子型の株が同時期に分離されており、さまざまな遺伝子型を示す菌株が散発的に流行しているものと推察される。パルスフィールド電気泳動法により、本菌の詳細な疫学調査が可能である。

  • キーワード:ウシ、遺伝子型別、呼吸器病、パルスフィールド電気泳動法
  • 担当:動物衛生研・疫学研究部・環境衛生研究室
  • 連絡先:電話0176-62-5115、電子メールでの問い合わせはこちらから。
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

Mannheimia haemolytica は、牛呼吸器病の主要原因菌のひとつである。本菌は13種 類の血清型に分類されているが、呼吸器病罹患牛からは血清型1型菌の分離頻度が非常に高く、国内流行株の半数以上が本血清型に分類される。このため、本菌 の野外動態を解明するには同一表現型の細菌をより精緻に型別することが望ましい。最近、パルスフィールド電気泳動法(PFGE法)、RAPD法、リボタイ ピング法などの遺伝子型別手法が、種々の細菌の分子疫学的解析に利用されているが、RAPD法やリボタイピング法は型別能力に問題がある。そこで、遺伝子 型別手法の1つであるPFGE法を用いて国内分離株の遺伝子型別を行い、本菌流行の疫学的解析における本法の有用性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1984年から2000年に13県で収集した呼吸器病罹患牛由来M. haemolytica 血清型1型菌 計130株はPFGE法により15種類の遺伝子型に区別される。また、15種類の遺伝子型は、系統樹解析により6遺伝子群(A~F)に大別され、53株が 遺伝子群Bに分類される。遺伝子群A、C、D、EおよびFには、それぞれ18株、8株、9株、27株および15株が分類される(図1)。これらのうち、遺伝子群Fは他の遺伝子群とは大きく異なるユニークなPFGEパターンを示し、また、いずれも成牛からの分離株である。
  • 遺伝子型B5に分類される株が26%と最も多く、また、本遺伝子型は調査した13県全てで認められる。また、調査各県では、遺伝子型B5以外にも複数の遺伝子型を呈する株が同時期に分離される。
  • 遺伝子群AおよびBに属する株は、調査期間を通して認められる。1987-1989年に1県においてのみ認められる遺伝子群Cの菌株は1991年以降認められなくなり、遺伝子群D、E、Fに分類される株は、1994年以降に認められるようになる(表1)。
  • 同一症例から分離された菌株の遺伝子型は、分離部位や分離個体に関わらず同一である。また、平板培地での継代では、遺伝子型に変異は認められない。

成果の活用面・留意点

  • PFGE法は、以前に報告したRAPD法に比較すると型別能力が高く、また、非常に安定した結果が得られることからM. haemolytica の分子疫学調査に有用である。
  • M. haemolytica の病原性と遺伝子群との関係や呼吸器病の発病動態と遺伝子型変遷の関連性を追求していく必要性がある。

具体的データ

図1 PFGE法による遺伝子型と系統樹解析

 

表1 遺伝子群と分離年との関係

 

その他

  • 研究課題名:DNA amplification fingerprinting法による呼吸器病原因細菌の同定方法の検討
  • 課題ID:13-02-02-*-01-01
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:勝田 賢、河本麻理子、川嶌健司、恒光 裕、坪井孝益、江口正志
  • 発表論文等:Katsuda et al. (2003) Epidemiol. Infect. 131: 939-946.