Streptococcus suis のクロラムフェニコール耐性トランスポゾンTnSs1

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要約

豚のレンサ球菌症の主な原因菌S.suis の野外株より クロラムフェニコール耐性遺伝子を持つ新規トランスポゾンTnSs1 を発見した。またこのTnSs1 は実際に転移可能であることも確認された。

  • キーワード:Streptococcus suis 、TnSs1 、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ブタ
  • 担当:動物衛生研・感染病研究部・病原細菌研究室
  • 連絡先:電話029-838-7743、電子メールでの問い合わせはこちらから。
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

既報のS.suis の薬剤感受性試験の成績をみると、クロラムフェニコール耐性(Cmr)株の存在は非常に稀であった。我々は国内の病豚より分離した40株のS.suis 株の中から2株のCmr株を見出した。本研究では、これらの株におけるCmrを付与する遺伝子領域について解析した。

成果の内容・特徴

  • S. suis野外株の一つ194株のCmrを付与する遺伝子領域5656bpの塩基配列を決定したところ、Cmr遺伝子(cat)を2コピーのISelement (IS214R及びIS214L)が挟む構造をしたCmrトランスポゾンの存在が明らかとなったので、これをTnSs1 と命名した(図1)。
  • PCR及びサザンハイブリダイゼーションを用いてTnSs1 領域が他のS.suis 株にも存在するかを調べたところ、もう一つのCmr株である195株でも194株とはゲノム上の異なる位置にTnSs1 様のトランスポゾンが存在することを確認した。
  • クロラムフェニコール感受性株及び温度感受性ベクターpSET4sを用いてTnSs1 の転移試験を行ったところ(図2A)、ベクター上のTnSs1 が菌染色体上に転移した株が高頻度に得られた。
  • ゲノムサザンハイブリダイゼーションの結果、これらの株は、1)TnSs1 がpSET4sを伴って菌染色体に挿入された株(図2B)、2)1コピーのTnSs1 だけが挿入された株(図2C)、3)2コピーのTnSs1 が挿入された株(図2D)の3つのタイプに分類することができた。また2コピーのTnSs1 が挿入された株では、一部の菌細胞においてIS element間での相同組換えによるTnSs1 の欠失と重複が繰り返されている様子が観察された(図2D)。
  • 以上の成績から、TnSs1 は機能的な転移酵素を保有し、ゲノム上を転移可能な新規トランスポゾンであることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

  • TnSs1 はレンサ球菌の変異株作製に一般的に使用されているトランスポゾンに比べて、小さく単純な構造をしているため、遺伝子改変のためのより扱いやすい道具としての利用が期待される。
  • S.suis の野外株の中には様々な薬剤に対する耐性株が存在するため、既存のトランスポゾンでは遺伝子改変の道具として利用出来ない場合がある。TnSs1 では、転移に必要な最小単位が809bpのIS214のみであるため、IS214をcat 以外の薬剤耐性遺伝子と組み合わせることにより、目的の株に適した薬剤耐性遺伝子をもつトランスポゾンを容易に作製することが出来るという利点をもつ。

具体的データ

図1 S.suis194株のTnSs領域の遺伝子地図。

 

図2 転移試験に用いたベクター(A)およびサザンハイブリダイゼーションの結果より予想されたTnSs転移領域の遺伝子構成

 

その他

  • 研究課題名:Streptococcus suisのゲノム構造の解明とプロテインプロファイルの作成
  • 課題ID:13-02-02-*-08-02
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:高松大輔、大崎慎人、関崎 勉
  • 発表論文等:Takamatsu et al. (2003) Plasmid 49:143-151.