回虫の発育・脱皮に必須な無機リン酸ピロフォスファターゼ
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要約
回虫幼虫期の発育・変態に関与する無機リン酸ピロフォスファターゼを同定し た。本研究で初めて明らかにされた寄生虫の無機リン酸ピロフォスファターゼの生物学機能は、新しい抗寄生虫薬・回虫ワクチンを開発する上で有用な知見である。
- キーワード:寄生虫、回虫、脱皮酵素、抗寄生虫薬、寄生虫ワクチン、ブタ
- 担当:動物衛生研・感染病研究部・寄生虫病研究室
- 連絡先:電話029-838-7749、電子メールでの問い合わせはこちらから。
- 区分:家畜衛生
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
有機農法や集約的な畜産形態の導入により農畜産物に混入したブタ回虫等によるヒトの回虫症が集団発生しており、家畜衛生面のみならず公衆衛生面においても
的確な回虫防除法が求められている。とりわけ、回虫の発育や生残に不可欠な蛋白・酵素を解析することにより、回虫ワクチンや新しい抗回虫薬の開発が進展す
るものと期待される。そこで、ブタ回虫の脱皮関連酵素の同定と解析を試みた。
成果の内容・特徴
- 無機リン酸ピロフォスファターゼ遺伝子を、寄生虫では初めて、ブタ回虫から単離した。大腸菌で作製した組換えブタ回虫無機リン酸ピロフォスファターゼ(rAsPPase)には、ピロリン酸を加水分解する酵素活性が確認された。
- rAsPPase に対する特異抗体を作製し、酵素の存在部位を調べたところ、ブタ回虫の全ての発育ステージで発現が確認された(図1、2)。ブタ回虫成虫では消化管、卵巣及び角皮下層で発現していた(図2)。また、ヒト回虫やイヌ回虫において類似分子の発現が認められた。
- 無機リン酸ピロフォスファターゼの特異拮抗薬であるイミドヂホスフェイト及びフッ化ナトリウムによって、ブタ回虫無機リン酸ピロフォスファターゼの酵素活性は濃度依存的に抑制された(図3A)。また、ブタ回虫第3期幼虫の脱皮が濃度依存的に抑制された(図3B、3C、4)。幼虫の生存には何ら影響は認められなかった。
- 特異抗体は第3期幼虫の脱皮をインビトロで阻止した。また、rAsPPase を免疫したマウスにブタ回虫の攻撃感染を実施したところ、幼虫のマウス体内移行が阻止された。
本研究により、ブタ回虫無機リン酸ピロフォスファターゼが同定され、脱皮に関与する酵素であることが明らかにされた。拮抗薬や抗体を用いて酵素活性を抑制することにより、ブタ回虫幼虫の脱皮や体内移行を阻止することが可能であった。
成果の活用面・留意点
- 本研究の知見は、寄生虫の無機リン酸ピロフォスファターゼを標的とした新しい抗寄生虫薬の開発に有益な情報である。
- 同時に、無機リン酸ピロフォスファターゼは回虫症のワクチン候補分子として有望である。
具体的データ
その他
- 研究課題名:人獣共通寄生虫の持続感染機構の解明
- 課題ID:13-02-01-01-61-03
- 予算区分:委託プロ/BSE・人獣 (ZCP-22)
- 研究期間:2003~2007年度
- 研究担当者:辻 尚利、カイルル イスラム、春日春江、磯部 尚
- 発表論文等:1) 辻ら (2002) 特許出願.特願2002-243551.
2) Islam et al. (2003) Eur. J. Biochem. 270:2814-2826.