飼料由来DNAの子牛生体内への移行

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要約

トウモロコシを含む飼料を子牛に3か月給与し、トウモロコシに由来するDNAの消化管や組織における局在についてPCR法で検討した結果 より、トウモロコシ等の植物に多量に存在するDNAは、約200塩基対の断片として末梢血単核細胞、臓器や筋肉に移行するが、組換え遺伝子断片の組織内移 行は確認されなかった。

背景・ねらい

飼料中の植物に由来する核酸成分の消化管内における分解の程度や消化管から体内への吸収移行の有無を明らかにするため、トウモロコシ(種実)を含む飼料を子牛に3か月給与し、消化管内容物および血液・臓器についてトウモロコシおよび植物のDNA断片の検出を行う。

成果の内容・特徴

  • トウモロコシを44%含む飼料を3か月齢の去勢子牛12頭に3か月間給餌した。半数の牛には害虫抵抗性遺伝子 Cry1Ab(1,845塩基対(bp))を組み込んだBt11トウモロコシを与えた。給与中のルーメン・直腸内容物・末梢血、および解剖時に採取した消 化管各部位の内容と臓器を材料として、以下のプライマーを用いてPCRによる遺伝子の検出を行った。
  • PCR用プライマーに、トウモロコシ特異的な遺伝子ツェイン(Ze1)(570 bp)検出のためにZEn1-5'-ZE02(242 bp)とインベルターゼ検出にIVR(226 bp)を、また植物に多い葉緑体遺伝子rubisco large subunit(1,431 bp)検出のためにrbcL(1,028 bp)とrbcL02-5'-rbcL02-3'(231 bp)、同様に運搬(t)RNA遺伝子検出のためにPlant 2(196 bp)を用いた。Cry1Abの検出にはBt11 1-5'-cryIA 1-3'(110 bp)を用いた。陽性対照には牛固有の遺伝子検出のためにL8129-H8357(271 bp)を用いた。
  • 給与全期間を通じて、葉緑体遺伝子およびトウモロコシ特異的遺伝子の断片がルーメンと直腸内容物から検出された(図1)。また、末梢血単核細胞、主要臓器および筋肉から葉緑体遺伝子の断片(Plant 2とrbcL02-5'-rbcL02-3')が検出されたが、トウモロコシ特異的遺伝子あるいは組換え遺伝子の断片は全ての子牛から検出されなかった(図2および表1)。検出された葉緑体遺伝子断片は塩基配列の解析から,植物由来が確認された。
  • これらの結果から、子牛では飼料中の植物由来DNAは消化管内で完全には分解されずPCRで検出可能な形で残存すること、ト ウモロコシや植物に多量に存在しゲノム内での反復コピー数が多いDNAは約200塩基対の断片として末梢血単核細胞、臓器や筋肉に移行すること、また植物 体でのゲノム内コピー数が少ないトウモロコシ特異的遺伝子や組換え遺伝子Cry1Abはそれらの組織に移行しないことが示された。

成果の活用面・留意点

植物由来DNAが組織や臓器中のどのような細胞に検出されるかを調べる必要がある。

具体的データ

図1 トウモロコシ給餌子牛(n=12)消化管内容からの飼料由来DNAのPCRによる検出率

 

図2 トウモロコシ給餌子牛組織からの飼料由来DNA断片のPCRによる検出

 

表1 Btトウモロコシ給餌子牛組織中の植物由来DNAのPCRによる検出率(n=12、%)

 

その他

  • 課題名:組換え体利用飼料由来物質の組織局在検出法
  • 予算区分:委託プロ/消化管内生産物(1110)
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:中島靖之、Chowdhury, E.H.、三上 修、山本祥子、村田英雄、吉岡 都、嶋田伸明、
    Sultana, P.、宮崎 茂、山中典子、Guruge, K.S.、栗原秀夫(食総研)、日野明寛(食総研)、斉藤 学(畜産草地研)
  • 発表論文等:1) Chowdhury et al. (2003) Vet. Hum. Toxicol. 45:95-96
                     2) Chowdhury et al. (2003) Vet. Hum. Toxicol. 45:72-75.
                     3)Chowdhury et al. (2003) J. Anim. Sci. 81:2546-2551.
                     4)Chowdhury et al. (2004) J. Food Protect. 67:365-370