日本ではじめて分離されたシンブ血清群Sathuperi virus

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要約

1999年、岡山県で牛の血漿より分離されたブニヤウイルス様のウイルスを、遺伝学的手法を用いて解析し、オルソブニヤウイルス科シンブ血清群Sathuperi virusと同定した。

背景・ねらい

1999年、岡山県において牛の血漿より、形態的にブニヤウイルスに類似したウイルスが分離され、飼養牛の抗体保有状況か ら、中国地方の広範囲での流行が確認された。分離ウイルスは、血清学的にアカバネ、アイノウイルスと異なっていたため、日本未分離のウイルスと推測され た。現在まで、血清学的手法によりアルボウイルスの同定は行われてきたが、すべてのウイルスの標準株およびその抗血清を揃えることは困難であり、制約が あった。そこで、現在、充実されつつあるデータベースを用いた遺伝学的手法により、簡便且つ迅速にウイルスを同定する事が有効であると考えられた。本研究 では、分離ウイルスのゲノムの一部の塩基配列を決定し、データベースを用いた解析による同定を試みた。

成果の内容・特徴

  • 1999年に岡山県で牛の血漿より分離されたOY-1/P/99およびOY-2/P/99株のS RNAセグメントを、RT-PCR法により増幅し、塩基配列を決定した。また、OY-1/P/99株のM RNAセグメントの塩基配列の一部も決定した。
  • OY-1/P/99とOY-2/P/99株のS RNAセグメントの塩基配列は完全に一致し、同じ遺伝学的性状を持つウイルスと考えられた。また、データベース(GenBank)検索により、 Sathuperi virus(SATV)のS RNAセグメント上のヌクレオカプシドをコードする配列と最も高い(97.6%)相同性を示した。Shamonda virusおよびDouglas virus(DOUV)もそれぞれ93%、91.1%の相同性を示したが、アカバネおよびアイノウイルスを含むシンブウイルス群の他のウイルスでは、 80%以下の相同性しか示さなかった。また、系統樹解析によっても同様に、分離ウイルスはSATVに最も近縁であることが確認された(図1)。
  • OY-1/P/99株のM RNAセグメントにコードされているG2タンパクのN末側168アミノ酸残基は、SATVの配列と高い相同性(98.2%)を示した(図2)。DOUVとも95.2%の相同性を示したが、他のウイルスとの相同性は75%以下であった。
  • 上記の結果より、分離ウイルスはSATVと同定された。SATVは、1957年にインドで初めて確認された後、ナイジェリア で牛およびヌカカから分離されている。本研究によってSATVが国内に存在することを初めて確認し、アフリカから東アジアまでの広い範囲に分布する牛のア ルボウイルスであることが明らかになった。

成果の活用面・留意点

  • 血清学的手法に代わる、遺伝学的情報に基づくウイルス同定システムにより、未同定のブニヤウイルスがSATVであることを確認した。今後、シンブウイルス群の同定に本システムの応用が可能かどうか検討する。
  • SATVと疾病との関連は全く解明されておらず、今後、牛の疾病との関連を疫学的に調査するとともに、国内における流行状況を監視する必要がある。

具体的データ

図1 ヌクレオカプシド遺伝子の塩基配列に基づくOY-1/P/99とシンブウイルス群との系統関係

 

図2 OY-1/P/99株およびSathuperi virusのG2タンパク(M RNAセグメント)
N末端側アミノ酸配列の比較。ドットは相同なアミノ酸を示す。

 

その他

  • 研究課題名:アルボウイルス感染症の分子疫学的解析による流行動態の解明
  • 課題ID:13-02-03-03-07-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:梁瀬 徹、吉田和生、大橋誠一、加藤友子、山川睦、津田知幸、福富豊子