日本の羊スクレイピーから分離した2種類のプリオン株
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要約
我が国で発生した羊スクレイピーから2種類のプリオン株を分離した。両者はマウスに馴化した際の潜伏期、病変の出現部位、異常プリオン蛋白質の蓄積部位に
差が認められた。マウスに両株を重感染させたところ、このプリオン株の組み合わせでは干渉または増強現象は認められなかった。
- キーワード:ヒツジ、スクレイピー、プリオン、プリオン株
- 担当:動物衛生研・プリオン病研究センター・病原・感染研究チーム、病態解明研究チーム
- 連絡先:電話029-838-7757、電子メールでの問い合わせはこちらから。
- 区分:動物衛生
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
羊・山羊のスクレイピーはプリオンに起因する伝達性海綿状脳症である。プリオンの本態は明確にされていないが、異常プリオ
ン蛋白質(PrPSc)がその主要構成成分と考えられている。プリオンには異なる生物学的性状を示す株の存在が知られているが、何がプリオンの株を規定し
ているかは明らかではない。複数のプリオン株を用いた研究は、PrPScの病原性の解明ならびにプリオン病の発病機構の解明に有用な知見をもたらすと考え
られる。また、我が国における伝達性海綿状脳症の実状を明らかとするためにも、日本で発生したスクレイピープリオン株の生物学的性状の解析は重要である。
成果の内容・特徴
- マウスで継代・馴化した時の潜伏期が異なる2種類のプリオン株(Tsukuba-1株、Tsukuba-2株)を分離した。Tsukuba-1株、Tsukuba-2株の潜伏期はそれぞれ133±2日、288±5日(平均±標準偏差)であった(図1)。
- Tsukuba-1株感染マウスでは空胞変性およびPrPScの蓄積は脳全体に認められたが、Tsukuba-2株感染マウスでは脳幹部に限局していた(図1)。病変分布にも両者には差が認められた(図2)。
- Tsukbua-2株感染マウスの脳にはPrPSc集積斑が認められた(図3)。
- マウスを用いて両株の重感染試験を行った。一方のプリオン株を脳内接種し、その50日後に他方のプリオン株を接種した。重感染したマウスの潜伏期はいずれも短潜伏期のTsukuba-1株に規定されていた(表1)。
以上より、生物学的性状の異なる複数のスクレイピープリオン株が日本に侵入していたことが判明した。
成果の活用面・留意点
今回樹立されたスクレイピープリオン株は、プリオンの発病機構やPrPScと病変との関連およびプリオン株を規定する因子を解明する上で有用なツールとなる。
具体的データ
その他
- 研究課題名:各種サンプルからの異常プリオン蛋白質の検出法の開発と応用
- 課題ID:13-02-01-02-16-02
- 予算区分:交付金プロ/プリオン病 (4110)
- 研究期間:1997~2002年度
- 研究担当者:広狩康裕、久保正法、木村久美子、播谷 亮、横山 隆
- 発表論文等:Hirogari et al. (2003) Microbiol. Immunol. 47 :871-876.