シミュレーションモデルによる口蹄疫摘発検査の評価

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シミュレーションモデルによる口蹄疫摘発検査の評価

要約

2000年の口蹄疫発生時に九州で実施された口蹄疫摘発のための検査の有効性について、確率モデルを用いて評価した結果、感染農場の摘発に十分に有効であったことが確認された。

背景・ねらい

口蹄疫の発生時には、臨床検査を主体とした感染動物の摘発・淘汰により、その撲滅を図ることが多い。しかしながら、 2000年にわが国で発生した口蹄疫では感染牛が典型的な臨床症状を呈さなかったため、臨床検査と併せて大規模な血清抽出検査を実施せざるを得なかった。 今後、このような非定型的な口蹄疫が侵入した場合の防疫対策に資するため、九州で実施されたサーベイの有効性とそれに与える要因について分析した。

成果の内容・特徴

  • 九州での口蹄疫発生時に移動制限地域内の牛飼養農家を対象に実施した臨床検査と血清抽出検査(表1のサンプリング方法による血清抗体検査)をモデル化し、シミュレーションによって農場単位での検査感度(少なくとも1頭の感染動物がいる農場を感染農場として摘発できる確率)を推定した。
  • 九州で実施された検査感度の平均値は、農場内での伝播速度を低く見積もった場合でも85%以上であったと推定された。限られ た期間内に1万5千戸以上の農家の検査を実施しなければならなかったことを考慮すれば、スクリーニングとしてのこの検査感度は十分高かったものと推察され た。
  • 血清抽出検査の感度は、農場内での口蹄疫の伝播スピードにあまり影響を受けなかった(図1)。 これは、移動制限地域内の農家の飼養規模が小さかったことによると考えられた。一方、1農家当たりの検査頭数の増加と血液採取日の遅延は血清抽出検査の感 度を大きく改善させることが示唆された。しかしながら、これらは一方で検査頭数の大幅な増加や感染牛摘発の遅れをもたらすと考えられ、血清抽出検査を摘発 又は清浄性の確認に用いる場合、血液採取日の設定が重要であると考えられた。

  • 以上から、九州で実施された大規模な検査は口蹄疫の早期撲滅に貢献したと考 えられた。一方、口蹄疫摘発のための抗体検査は感染から抗体上昇までの時間差に大きく影響を受けるため、抗体検査を実施する場合には、地域の飼養規模、検 査能力、初発農家の感染時期などを考慮する必要がある。

成果の活用面・留意点

    同様のモデルを用いた定量的分析が、口蹄疫以外の疾病の摘発のための分析や評価に応用できる。本研究で作成したモデルも入力値にいくつかの推定値を用いており、モデルには一定の前提条件があることに留意する必要がある。

具体的データ

表1 2000年で九州で実施された血清抽出検査の1戸当たりの検査頭数

 

図1 各種の要因が血清抽出検査の感度に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:口蹄疫のリスクマネージメント手法の開発
  • 課題ID:13-01-03-01-01-03
  • 予算区分:交付金プロ/口蹄疫 (5010)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:筒井俊之、濱岡隆文、山根逸郎、志村亀夫
  • 発表論文等:Tsutsui et al. (2003) Pre. Vet. Med. 61:45-58.