黄色ブドウ球菌由来潜在性乳房炎に対するrbGM-CSFとrbIL-8の治癒効果

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要約

組換えウシサイトカインrbGM-CSFとrbIL-8を黄色ブドウ球菌由来潜在性乳房炎牛の乳房内に投与して治癒効果を調べたところ、感染発病して早期であれば、これらのサイトカインの組み合わせ投与によって潜在性乳房炎の治癒が可能である。

  • キーワード:乳用牛、黄色ブドウ球菌、潜在性乳房炎、rbGM-CSF、rbIL-8、乳汁化学発光能
  • 担当:動物衛生研・生産病研究部・上席研究官
  • 連絡先:電話029-838-7780、電子メールwww-niah@naro.affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

黄色ブドウ球菌(ブ菌)は、毒素産生性と組織定着性が強いため、本菌による乳房炎の治癒率は極めて低い。また本菌は、病巣に肉芽腫 や膿瘍を形成し、病気が慢性化する場合が多い。そのため、感染の早期に発見し、治療することが重要となる。我々は、貪食細胞が殺菌する際に検出される化学 発光を応用した乳房炎早期診断法(乳汁CL法)を開発し、応用を試みている。この方法は乳房への細菌侵入と同時に起こる乳汁貪食細胞の変動を検出できるた め、初期乳房炎の診断に有効であると考えられる。今回は、乳汁中の貪食細胞の化学発光能(CL能)、乳汁中の体細胞数(SCC)、乳汁中の総菌数及びブ菌 数を主な診断指標にして、顆粒球・マクロファージに対する活性化作用や遊走能亢進作用を持つ組換えウシサイトカインrbGM-CSFやrbIL-8を時間 をずらしてブ菌由来潜在性乳房炎罹患乳房に投与し、乳房炎の治癒効果を調べる。

成果の内容・特徴

  • ブ菌由来潜在性乳房炎に罹患している泌乳中期のホルスタイン牛を乳房炎罹患後1ヶ月未満(早期群、7頭)と罹患後 2∼6ヶ月経過の群(晩期群、8頭)に分けた。両群に対して、まず対照実験として朝と夕の搾乳後、罹患乳房に対照液5ml(生理食塩水4ml+細胞培養液 1ml)を投与して7日間採材した。続いて、朝の搾乳後にrbGM-CSF 400μg/5mlを、夕の搾乳後にrbIL-8 1mg/5mlを同一乳房に投与し、14日間採材を行った。
  • 対照液及びサイトカイン投与に伴って直腸温は両群とも6時間目に0.3∼0.6℃上昇したが、1日目以降は投与前の値に戻った。日乳量は、目立った変化を示さなかった。
  • カリフォルニアマスタイテステスト(CMT)値は、晩期群ではサイトカイン投与後も陽性が続いたが、早期群では7日と14日目にほとんどが陰転した。
  • 乳汁CL能及びSCCは、両群ともサイトカイン投与1日目にピーク値を持つ大きな上昇を示したが、その後の低下度合いは早期群の方が大きく、7日と14日目には投与前の値を大きく下回った(図1(a), (b))。
  • 乳汁総菌数及びブ菌数は、両群ともサイトカイン投与後6時間∼2日目に大きく減少した。早期群はその後も一貫して減少を続けたが、晩期群は7∼14日目に菌数の回復が見られた(図1(c), (d))。
  • 以上、2種類のサイトカインの乳房炎罹患乳房への時間差投与によって、早期群では明瞭な治癒効果が認められた。

成果の活用面・留意点

  • 難治性の黄色ブドウ球菌由来潜在性乳房炎でも、感染して短期間内であればrbGM-CSFとrbIL-8の併用投与によって治癒が可能であることから、将来の乳房炎の新しい治療剤の一つとして期待できる。
  • 組換えサイトカインは、炎症亢進作用があり、食品の安全性についても不明確な点があるので、実用化のためにはこれらの問題を解決する必要がある。

具体的データ

図1 潜在性乳房炎罹患乳房へのrbGM-CSFとrbIL-8の投与実験

 

その他

  • 研究課題名:化学発光を指標とした乳房炎の予防治療技術の開発
  • 課題ID:13-05-03-01-03-05
  • 予算区分:交付金プロ(乳房炎)
  • 研究期間:2001∼2005年度
  • 研究担当者:高橋秀之、上田 久、四十万谷吉郎、櫛引史郎、小松篤司、犬丸茂樹
  • 発表論文等:
    1) Takahashi et al. (2004) Can. J. Vet. Res. 68: 182-187.
    2) Takahashi et al. (2004) J. Anim. Feed Sci. 13: 563-566.
    3) Takahashi et al. (2005) J. Vet. Med. B. 52: 32-37.