オセロットにみられた胃侵入性Helicobacter感染症

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要約

高い胃侵入能をもつHelicobacter様菌がオセロット(ネコ科)の胃壁細胞の分泌細管あるいは細胞質内 に局在することを明らかにした。新しい学術用語として“gastroinvasive Helicobacter-like organism(胃侵入性ヘリコバクター様菌)”を提唱した。

  • キーワード:細菌感染、gastroinvasive Helicobacter-like organism、Helicobacter heilmannii、胃侵 入性、壁細胞、オセロット(Leopardus)、ネコ科
  • 担当:動物衛生研・疫学研究部・病性鑑定室
  • 連絡先:電話029-838-7774、電子メールwww-niah@naro.affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

ヒトのH. pylori感染症は、慢性胃炎、潰瘍、リンパ腫、腺腫などの発生に関与している。ネコ科動物の Helicobacter属菌も同様に軽度の胃炎、慢性胃炎、リンパ濾胞の過形成、腺癌に関連している。通常、 Helicobacter属菌は粘膜表層や胃小窩に存在し、イヌとネコでは、Helicobacter属菌が壁細胞に 密接するものの、分泌細管つまり細胞外に局在する。一方、サルのH. heilmannii様菌は、明らかに細胞質内であったが、その数は非常に少ない。今回、ネコ科動物におい て高い細胞質内侵入能をもつHelicobacter様菌が確認されたため、その病理学的特徴とその病理発生機構 を明らかにすることを目指した。また、“gastroinvasive Helicobacter-like organism(GHLO)”を提唱した。

成果の内容・特徴

  • 19歳の雌のオセロットが左鼻腔から出血し、食欲低下、脱水を呈して出血の翌日死亡した。剖検では、肺に直径 0.1∼0.5cmの膿瘍が多数みられ、死因と考えられた。肉眼的に胃底部粘膜における多発性潰瘍が認められた。
  • 組織学的にも、多発性胃潰瘍があり、好中球が浸潤していた。他の部分では壁細胞の過形成がみられ、しばしば 多核化し(図1)、核濃縮や壊死もみられた。一方、主細胞や頚部粘液細胞は減数していた。多数の好銀性グラム陰 性GHLO(図2)が多くの壁細胞の細胞質内にみられ、その数は胃小窩よりも多かった。GHLOが多くみられる壁細胞の 細胞質内には、好銀性でPAS陽性の顆粒が多くみられた。
  • H. pyloriポリクローナル抗体(Dako)を用いた免疫組織化学的染色により、GHLOは陽性反応を示し た。壁細胞の過形成部では、増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen)をもつ上皮細胞が、増殖帯のみならず粘膜下層にもみられた。
  • 超微形態学的に、細胞質内、分泌細管、胃小窩にGHLO(図3)が確認できた。細菌は長さ4.9∼6.9μm、幅 0.4∼0.6μm、8∼10回転する菌体で少なくとも4本のpolar flagellaをもつが、periplasmic fiberはみられなかった。これらの特徴は、Lockardが Helicobacter属菌を形態学的に分類したもののうち、type 3に属するH. heilmanniiに極めて類似していた。また、ミエリノソーム(図4)あるいは2 次リソソームを含む壁細胞がみられた。
  • これらのことから、壁細胞の過形成はこのGHLOの細胞内寄生によることが示唆された。また、抗生物質による治 療が困難であることが予想された。

成果の活用面・留意点

  • ネコ科動物の消化管疾病における原因のひとつとして、GHLOを考慮する必要がある。本研究は、本疾病の存在を 認識し、その診断および治療の開発に有用な資料となる。
  • ネコ科動物を中心に各種動物のGHLOの感染状況を調査する必要がある。

具体的データ

図1 オセロットの胃粘膜。好塩基性の細長いGHLO(矢印)が壁細胞の細胞質内にみられる。3つの核を持つ壁細胞(矢頭)が認められる。HE染色。Bar=12.5μm

 

図2 オセロットの胃粘膜。多数の好銀性GHLO(矢印)が壁細胞の細胞質内に認められる。Warthin-Starry染色。Bar=20μm

 

図3 壁細胞の透過型電子顕微鏡像。細胞質内のGHLOは、螺旋状を示している(矢印)。酢酸ウラニル・クエン酸鉛二重染色。Bar=4μm

 

図4 壁細胞の透過型電子顕微鏡像。GHLOは、周囲のミトコンドリアと接し(矢印)、明らかに細胞質内に存在する。膜状の構造を持つミエリノソームが認められる(矢頭)。酢酸ウラニル・クエン酸鉛二重染色。Bar=1μm

 

その他

  • 研究課題名:動物の螺旋菌・桿菌の感染状況調査と病理組織学的特徴の解明
  • 課題ID:13-02-01-*-117-05
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2005年度
  • 研究担当者:嘉納由紀子(北海道石狩家保)、福井大祐(旭山動物園)、山本慎二(北海道釧路家保)、芝原友幸、久保正法、 石川義春、門田耕一
  • 発表論文等:Kanou et al. (2005) J. Comp. Pathol. 133:281-285.