サツマイモ品種「パープルスイートロード」は収穫期の湿害に弱い

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要約

2004年の収穫期の多雨による湿害の発生程度には、明確な品種間差が見られ、パープルスイートロードは、湿害に弱い。パープルスイートロードでは、塊根表面の水濡れによる呼吸阻害の程度が大きく、塊根表面の周皮の構造は「ベニアズマ」とは明らかに異なる。

  • キーワード:サツマイモ、湿害、品種、塊根、呼吸活性、周皮表面構造
  • 担当:作物研・畑作物研究部・甘しょ育種研究室
  • 連絡先:電話0298-38-8500、電子メールnics-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:作物・夏畑作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田畑作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

サツマイモは、風害には強いが、土壌の過湿に弱いとされている。しかし、近年は過湿害の発生がほとんど見られず、最近の品種の湿害耐性については、全く情報がなかった。2004年は、関東地方のサツマイモの標準的な収穫期である10月に、台風の襲来等が重なり、平年値の4倍近い記録的な多雨となった。作物研究所甘しょ育種研究室の品種育成試験も湿害を被り、その程度には明確な品種間差異が認められたので、情報として取りまとめるとともに、品種間差に関連する生理的要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 10月中旬収穫で、比較的湿害が軽微であった遺伝資源保存栽培(1品種10株、無反復、マルチ栽培)と、最も著しい湿害を受けた11月上旬収穫の青果用無マルチ標準栽培(40株3反復)における対照品種群の塊根腐敗程度を達観で比較し、品種間差を検討すると、11月上旬収穫では、いずれの品種も何らかの湿害は被っていたが、大半のイモが腐敗していた「パープルスイートロード」が、特に湿害に弱い(表1)。
  • 「パープルスイートロード」の健全塊根の内部組織の呼吸活性は、「ベニアズマ」と大差がない(図1)。しかし、塊根全体の呼吸速度は、「パープルスイートロード」で明らかに低い。さらに、塊根表面を水道水で濡らすと、「ベニアズマ」では呼吸速度が半分程度に低下するのに対し、「パープルスイートロード」の場合は、塊根表面が乾いた状態の1割以下に低下したことから、塊根表面の水濡れによる、ガス拡散抵抗の増加程度が大きいと見られる(図2)。
  • 両品種の塊根周皮の表面構造を走査型電顕で観察すると、「ベニアズマ」では凹凸が多いが、「パープルスイートロード」では比較的平滑である。周皮付近の横断切片を光顕観察すると、「パープルスイートロード」では、周皮細胞層が厚く、均一で、さらにその内側に比較的小型の細胞からなる細胞間隙の少ない層が存在する(図3)。このような構造が、この品種の周皮の平滑性をもたらす一方、塊根内部からのガス拡散の抵抗となり、湿害に弱いことと関係している可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • 「パープルスイートロード」を新規導入する場合の適地判定などの場面で参考資料として活用する。
  • 「パープルスイートロード」塊根のガス拡散抵抗の高さは、周皮の構造以外の要因も関連している可能性がある。

具体的データ

表1 10月中旬と11月上旬収穫の主要品種の塊根腐敗発生程度

 

図1 塊根内部組織切片の呼吸活性 図2塊根全体の呼吸速度

 

図3 塊根周皮表面の走査電顕像(上)と周皮付近の横断切片の光顕像(下)

その他

  • 研究課題名:高品質・良食味青果用甘しょ品種の育成
  • 課題ID:08-02-02-01-01-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2004年度
  • 研究担当者:中谷 誠、藏之内利和、熊谷 亨