小麦遺伝資源「U24」の閉花受粉性の遺伝様式

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要約

閉花受粉性小麦遺伝資源「U24」と開花受粉性品種との交配後代及び倍加半数体を用いて遺伝様式を調査した結果、「U24」の閉花受粉性は劣性3遺伝子による遺伝と推定され、その導入には半数体育種法が有効である。

  • キーワード:コムギ、閉花受粉性、遺伝様式、赤かび病抵抗性
  • 担当:作物研・麦類研究部・小麦育種研究室、麦類栽培生理研究室
  • 連絡先:電話029-838-7497、電子メールnics-seika@naro.affrc.go.jp
  • 区分:作物・冬作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田畑作物(冬作物)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

麦類の赤かび病は開花期に感染する機会が高く、大麦では準同質遺伝子系統を用いて、開花受粉性に比べて閉花受粉性の抵抗性が強いこと(吉田ら,2003)が明らかにされている。小麦にも、わずかながら閉花受粉性の系統があるが、現在国内で閉花受粉性の母本として使われている小麦遺伝資源「U24」について、その遺伝様式は不明である。そこで、閉花受粉性の遺伝様式を解明し、わが国の小麦品種への閉花受粉性導入による赤かび病抵抗性の強化に資する。

成果の内容・特徴

  • 「U24」と開花受粉性小麦品種「バンドウワセ」との正逆交雑のF1はともに開花受粉性であり、「U24」の閉花受粉性は劣性である(表1)。
  • 同じ組合せのF2では、完全に開花する個体から閉花受粉性の個体まで連続的に観察されるため、さらにF3系統を各40個体展開して確認した結果、F2で閉花と判定された個体のほとんどが開花または中間型の個体を分離し、閉花受粉性で固定していたF3系統は、U24/バンドウワセの組合せのうち1系統のみである(表1)。
  • これは、開閉花受粉性は気温などの環境の影響を受けやすく、完全な閉花受粉性でなくても、閉花受粉性と判定される場合があるためと考えられる。また、この閉花受粉性F3固定系統の1個体と「U24」とを交配したF1は閉花受粉性であり、この個体には「U24」の閉花受粉性遺伝子が導入されていると考えられる(表1)。
  • 「U24」と開花受粉性小麦品種「あやひかり」との組合せから作出したDH2(倍加半数体2世代目)系統においても、開花受粉性から閉花受粉性系統まで連続的な変異があり、中間型の表現型を示すホモ系統が存在する。
  • χ2 検定の結果、倍加半数体系統の閉花受粉性は劣性3遺伝子と考えられる7:1の分離比に適合する。また、上記のバンドウワセとの組合せのF3系統についても、63:1の分離比に適合するため、「U24」の閉花受粉性は劣性3遺伝子による遺伝であると推定される(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 半数体育種法では、閉花受粉性系統が従来の育種法より8倍の高い分離比で得られるとともに、ホモ系統が得られるため効率的である。
  • 閉花受粉性に見える個体でも、完全な閉花受粉性ホモ個体でない場合があるため、戻し交雑により閉花受粉性の導入を行う際には、後代検定による確認などの注意を要する。
  • 「U24」はウイグル自治区の在来種で、東京農業大学より分譲されたものである。

具体的データ

表1.小麦遺伝資源「U24」との交配後代における開花受粉性の分離

その他

  • 研究課題名:閉花性の導入による小麦赤かび病抵抗性育種素材の作出
                      早生、高品質、安定多収めん用小麦品種の開発
                      麦類の開閉花性制御機構の解明
  • 課題ID:08-03-01-01-21-04、08-03-01-01-01-03、08-03-04-01-06-03
  • 予算区分:ジ-ンバンク、交付金
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:藤田雅也、渡辺好昭、本多一郎、江口久夫、松中仁、乙部千雅子
  • 発表論文等:藤田ら (2004) 育種学研究6 (別2)