変異型のWx遺伝子を持つ小麦系統におけるアミロース含量の段階的な低減
要約
突然変異の誘発や遺伝資源に見出された5つの変異型Wx遺伝子(Wx-A1c、-A1i、-D1f、-D1g、-D1h)を持つ小麦系統の澱粉あたりのアミロース含量は、およそ23%~数%までの範囲で段階的に減少する。
- キーワード:小麦、澱粉、アミロース、変異Wx遺伝子
- 担当:作物開発・利用・小麦品種開発・利用
- 代表連絡先:電話029-838-8868
- 研究所名:作物研究所・麦研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
小麦澱粉のアミロース含量は加工適性や製品の食感に影響し、様々なアミロースの小麦はその影響程度を明らかにする上で有用である。アミロースはWx遺伝子がコードする酵素Wxタンパク質により合成され、この遺伝子が変異し、酵素の機能が低下すると、アミロースは減少する。小麦の野生型遺伝子Wx-A1a、-B1a、-D1aと欠損型-A1b、-B1b、-D1bの組み合わせの中ではWx-A1a、-B1b、-D1bがモチの次にアミロースが少ない。一方、遺伝型Wx-A1b、-B1b、-D1aの「関東107号」に突然変異を誘発したWx-D1hを持つ「小麦中間母本農7号」、-D1 fを持つ「小麦中間母本農8号」、-D1gの「K107Afpp4」は親系統に比べて、アミロースが減少する。また、遺伝資源に見出されたWx-A1cまたは-A1iを持つ系統は-A1aの系統に比べてアミロースが減少する。そこで、これらの系統のアミロース減少程度を比較するとともに、二つの変異遺伝子を組み合わせた新たな系統「Wx-A1i+-D1f」と「Wx-A1c+-D1f」を選抜し、アミロース含量を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 小麦系統のアミロース含量はおよそ次の順で減少する。「Wx-D1a」(遺伝子型、Wx-A1b、-B1b、-D1a)>「Wx-A1a」(Wx-A1a、-B1b、-D1b)>「中間母本農7号」(Wx-A1b、-B1b、-D1h)>「K107Afpp4」(Wx-A1b、-B1b、-D1g)>「Wx-A1c」(Wx-A1c、-B1b、-D1b)>「Wx-A1i」(Wx-A1i、-B1b、-D1b)>「中間母本農8号」(Wx-A1b、-B1b、-D1f)>「もち」(Wx-A1b、-B1b、-D1b)(図1)。このうち、「Wx-A1c」と「Wx-A1i」の間のアミロース含量の差異が比較的大きい。
- 二つの変異遺伝子を組み合わせた系統「Wx-A1i+-D1f」(遺伝子型、Wx-A1i、-B1b、-D1f)のアミロース含量は「Wx-A1c」より少なく、「Wx-A1i」より多い。また、「Wx-A1c+-D1f」(Wx-A1c、-B1b、-D1f)のアミロース含量は「Wx-A1a」と「Wx-A1c」の中間にある(図2)。
成果の活用面・留意点
- 変異Wx遺伝子型から小麦系統のアミロース含量の推定や調節が可能となる。
- 遺伝的背景が異なったり、アミロース含量の差が小さい場合、系統間で順位が入れ違うことがありうる。
具体的データ
![](../../../files/nics15_s03_1.png)
その他
- 中課題名:気候区分に対応した用途別高品質・安定多収小麦品種の育成
- 中課題整理番号:112d0
- 予算区分:交付金、その他外部資金(エリザベス・アーノルド富士財団)
- 研究期間:2012~2015年度
- 研究担当者:山守誠
- 発表論文等:Yamamori M. and Yasui T. (2016) Crop Sci.56(2):644-653