大豆の出芽期における冠水による障害をナノ酸化アルミニウムが軽減する

要約

大豆の出芽期における冠水ストレスによる生育遅延は、ナノ酸化アルミニウム添加により軽減される。その軽減効果には、エネルギー代謝系や細胞死の抑制が関与している。

  • キーワード:大豆、出芽期、湿害、プロテオミクス、ナノ酸化アルミニウム
  • 担当:作物開発・利用・麦・大豆遺伝子制御
  • 代表連絡先:電話029-838-8693
  • 研究所名:作物研究所・畑作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国の水田転換畑における大豆の栽培では、障害が発生し生産が不安定となるので、湿害を回避する技術が必要である。大豆は出芽期の数日間の冠水で根に障害が発生しその後の生育遅延を招く。一方、ナノ粒子は、比表面積が極めて大きいこと、量子サイズ効果によって特有の物性を示すことなど、一般的な大きさの固体の材料とは異なることから、様々な分野で研究・利用が進められている。そこで、出芽期の大豆の冠水抵抗性におけるナノ粒子の関与を明らかにすることにより、耐湿性機構に関する分子生物学的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 大豆(品種エンレイ)を用いて、出芽期の冠水処理時のナノ粒子の影響を解析した。砂に大豆を播種後、2日目で4日間の冠水処理を行う時に、各種粒子サイズ・各種濃度のナノ酸化アルミニウム、ナノ銀、ナノ亜鉛水溶液を添加し、経時的に根の伸長および重量等を測定した。ナノ亜鉛や高濃度のナノ粒子は伸長を抑制するが、50ppmの30-60 nmナノ酸化アルミニウムは、根の伸長を促進する効果がある(図1)。
  • 冠水処理時に50ppmの30-60 nmナノ酸化アルミニウムを添加後、経時的にタンパク質を抽出しプロテオミクス解析を行い、得られたタンパク質群を、代謝マップ上にプロットした。冠水処理により、解糖系、嫌気代謝系およびクエン酸回路等が促進するが、ナノ酸化アルミニウムにより抑制される(図2)。
  • 未処理、冠水、ナノ酸化アルミニウムにより共通に変動する172タンパク質群の経時変化を利用して、クラスター解析を行った。解糖系、ストレス、植物ホルモンに関与するタンパク質群の蓄積が冠水により増加し、ナノ酸化アルミニウムにより、対照レベルまで回復する(図3)。
  • 未処理、冠水、ナノ酸化アルミニウムの大豆根の細胞死への影響を経時的なエバンスブルーの取込により解析した。ナノ酸化アルミニウム添加により、冠水下で細胞死を抑制することにより、冠水ストレスを軽減していることが示唆される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究における冠水抵抗性に関与するナノ粒子の影響は「エンレイ」で得られた成果である。
  • 本研究を推進することにより、ナノ粒子の新たな利用法を示唆できる。

具体的データ

その他

  • 中課題名:ゲノム情報を活用した麦・大豆の重要形質制御機構の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号:112g0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:小松節子、Ghazara MUSTAFA、Zahed HOSSAIN(西ベンガル州立大)
  • 発表論文等:
    1) Mustafa et al. (2015) J. Proteomics 122:100-118.
    3) Mustafa et al. (2015) J. Proteomics 128:280-297.
    2) Hossain et al. (2016) J. Hazard Mater. 304:291-305.