低温糊化でん粉を含むサツマイモ「クイックスイート」のマルトース生成メカニズム
要約
糊化開始温度が極めて低い(約55°C)でん粉を含むサツマイモ「クイックスイート」では、「ベニアズマ」(糊化開始温度約75°C)より低い加熱温度からマルトース生成が始まる。また、β-アミラーゼが「ベニアズマ」より高い温度まで活性を維持する。
- キーワード:クイックスイート、ベニアズマ、マルトース生成、でん粉糊化、加熱温度
- 担当:ブランド農産物開発・カンショ品種開発・利用
- 代表連絡先:電話 029-838-8500
- 研究所名:作物研究所・畑作物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
サツマイモを加熱調理すると糊化したでん粉がβ-アミラーゼで分解され、多量のマルトースが生成して甘さが著しく増す。したがって、でん粉の糊化し易さやβ-アミラーゼ活性はサツマイモの甘さに深く関わると考えられる。「クイックスイート」は糊化温度が通常の品種等に比べ格段に低いでん粉を含み、調理時間が短くても甘くなる利点を有するが、そのマルトース生成メカニズムは充分に明らかになっていない。そこで、この品種のマルトース生成の様相を糊化温度が通常のでん粉を有する品種(「ベニアズマ」)と比較検討し、「クイックスイート」におけるマルトース生成の特徴を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 加熱された塊根組織細胞内のでん粉が糊化し始める温度は、「クイックスイート」では約50°C、「ベニアズマ」では約80°Cである(図1)。
- 加熱された塊根でマルトース生成が始まる温度は「クイックスイート」では約50°C、「ベニアズマ」では約80°Cである(図2)。
- 80°Cで加熱された塊根から抽出されたβ-アミラーゼ活性は、「クイックスイート」では未加熱塊根と変わらないが、「ベニアズマ」では未加熱塊根の約20%に低下する(図3)。一方、未加熱塊根から抽出されたβ-アミラーゼの活性は両品種とも温度に対してほぼ同様の応答を示し(図4)、酵素自体の温度特性には違いがない。
成果の活用面・留意点
- 糊化開始温度(でん粉液の粘度上昇が検知される温度)が極めて低いでん粉を含むサツマイモ「クイックスイート」では、加熱過程の早期(より低い温度)からでん粉が糊化し、β-アミラーゼの活性が高温まで維持されると考えられる。同品種におけるマルトース生成の最適加熱温度は約80°Cである。
- 本研究に供試した塊根は中央農業総合研究センターの試験圃場(茨城県つくばみらい市)で栽培された。栽培地が異なると、糊化開始温度等の数値が異なる可能性がある。
- でん粉の糊化度は、加熱された塊根組織から抽出したでん粉をβ-アミラーゼで分解した時に生じた還元糖量を完全に糊化したでん粉からの生成量と比較して評価した。
具体的データ
その他
- 中課題名:高品質・高付加価値で省力栽培適性に優れたカンショの開発
- 中課題整理番号:320b0
- 予算区分:運営費交付金
- 研究期間:2011~2015年度
- 研究担当者:中村善行、高田明子、藏之内利和、増田亮一、片山健二
- 発表論文等:
1)中村ら(2014)日本食品科学工学会誌61:62-69
2)中村(2014)日本醸造協会誌109:720-725
3)Nakamura Y. et al.(2014)Proc. NARO International Symposium 2014.56-57
4)Nakamura Y. et al.(2015)Sweetpotato Research Front 31:4
5)中村(2016)いも類振興情報126:30-36