耕作放棄地放牧向けシバ型草地の省力・低コスト造成法
要約
放牧を利用した耕作放棄地解消に適するシバ型草地は、造成に多くの経費と労力を要していたが、「センチピードグラス播種法」と「シバ糞上移植法」により省力・低コストの草地造成が可能となる。
- キーワード:耕作放棄地、シバ糞上移植、センチピードグラス、草地造成、放牧
- 担当:自給飼料生産・利用・公共牧場高度利用
- 代表連絡先:電話 029-838-8611
- 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
中山間地域では、耕作放棄地の解消・農地の粗放的維持管理の手段として肉用繁殖牛の放牧に関心が高まっている。従来は平坦な農地での小規模放牧が主体であったが、今後は土地の集積が進み、農地周辺部の傾斜地を含む比較的広い区域にまで対象が拡大するものと考えられる。その際、傾斜地も含めた土地保全が課題となるが、土壌緊縛力が高く、無施肥で植生が維持でき、牧養力も比較的高いシバ型草地の利用は、この問題解決に適した方法である。ただし、シバ型草地の造成には多くの経費と労力を要することが難点とされているため、その対策として省力・低コストのシバ型草地造成法を開発する。
成果の内容・特徴
- シバ型草地の省力・低コストな造成技術である「センチピードグラス(Eremochloa ophiuroides)の播種法」および「シバ(Zoysia japonica)の糞上移植法」は、植え付けに要する作業行程が短縮でき、作業の負担を大幅に軽減することができる。また、耕作放棄地の既存植生を放牧によって抑圧しつつ、シバ型草地の造成が可能となるため、造成・管理用の農業機械は不要となる(図1)。
- センチピードグラス播種法は最も省力的に造成できる反面、種子が高価(1万円/kg以上)であるため、播種量を斜面方位や傾斜度に応じて調整することで、経済的かつ効率的に草地化を進めることができる。その際、「センチピードグラス種子量計算シート」を用いることで、現地地形に即した必要種子量を容易に求めることができる(図2)。
- シバ糞上移植法は予めシバ苗を準備する必要があるが、現地での植え付け作業は簡単かつ軽労である(図3)。
- 両造成法は、幼植物の定着率を向上させるため、播種・移植後の放牧管理等が重要となる。それら一連の技術を含む造成全般について、実作業時の手順とポイントをわかりやすく解説したマニュアルを公表する。全体構成は表1の通りである。
普及のための参考情報
- 普及対象:耕作放棄地を活用した放牧実践農家、技術普及員
- 普及予定地域:センチピードグラスは比較的温暖な地域(福島県以南の低標高地域)の耕作放棄地に適するが、シバはそれより冷涼な地域(東北以南の高標高地域)の耕作放棄地でも利用可能である。草種の選択は導入地域の気候に合わせて行う。
- 普及予定面積等:普及予定面積は300ha以上。本法は、栃木県と群馬県内の耕作放棄地放牧実践農家で導入済み。
- その他:マニュアル冊子体は農協・普及所および研究機関に配布しており、Web版も畜産草地研究所ホームページにおいて公開済み。
具体的データ
その他
- 中課題名:預託期間拡張を可能とする公共牧場高度利用技術の開発
- 中課題整理番号:120c4
- 予算区分:交付金、その他外部資金(その他)
- 研究期間:2002~2014年度
- 研究担当者:平野清、北川美弥、進藤和政、井出保行、西田智子、池田堅太郎、中野美和、山本嘉人
- 発表論文等:
1)平野ら(2014)「耕作放棄地放牧等における省力・低コストなシバ型草地化技術マニュアル」(2014 年12 月25 日)
2)Hirano K. et al. (2015) Bull. NARO Inst. Livst. Grassl. Sci. 15:1-10