エンドファイト由来のロリンアルカロイドはアカスジカスミカメの生存率を低下させる
要約
Epichloe属の共生糸状菌(エンドファイト)が宿主植物中に産生するロリンアルカロイド(N-フォルミルロリン)は、斑点米カメムシ類の代表種で近年発生・優占地域が急増しているアカスジカスミカメの生存率を著しく低下させる。
- キーワード:害虫防除、斑点米カメムシ類、アカスジカスミカメ、N-フォルミルロリン
- 担当:自給飼料生産・利用・飼料作物品種開発
- 代表連絡先:電話 029-838-8611
- 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
斑点米カメムシ類の一種であるアカスジカスミカメ(図1)は、近年急速に発生・優占地域を拡大しており、本種による斑点米被害が増加している。本種は牧草地やイネ科雑草地で増殖してから水田に侵入することから、牧草地に近接する水田では本種による被害が発生しやすい。Epichloe (syn. Neotyphodium)属の共生糸状菌(エンドファイト)が感染した牧草は、菌が産生する昆虫に対して毒性を持つ化合物を体内に蓄積し、カメムシ類やウンカ類の生存率を低下させる例が知られており、害虫抵抗性牧草作出のための育種素材として期待されている。そこで、エンドファイト感染牧草がアカスジカスミカメに対しても致死的に作用するかを明らかにするため、エンドファイト由来の化合物で昆虫への毒性の報告があるN-フォルミルロリン(NFL)およびペラミンを本種に経口投与する試験を行う。
成果の内容・特徴
- NFLは、植物中では5000ppmに達する例もある化合物であるが、パラフィルム膜を通して吸汁させる方法を用いて孵化直後のアカスジカスミカメ幼虫に投与すると、50ppm以上の濃度で著しく生存率が低下する(図2A)。
- NFLを摂食したアカスジカスミカメ幼虫の死亡リスクは、対照となる0ppm処理区と比較して、50ppm処理区で35.4倍、100ppm処理区で38.6倍、500ppm処理区で39.9倍である(Coxの比例ハザードモデルへの当てはめにより算出)。
- ペラミンは、植物中では5-50ppmの濃度になる化合物であるが、この範囲の濃度では、アカスジカスミカメ幼虫の生存率を低下させない(図2B)。
- 家畜に有害な化合物を産生せずNFLを産生するエンドファイトとしてE. uncinataやE. occultansが知られている。これらのエンドファイトが感染した牧草の穂には、アカスジカスミカメに致死的に作用する濃度より高い濃度のNFLが蓄積される(表1)。
- これらの結果から、 E. uncinataやE. occultansなどNFLを産生する種類のエンドファイトが感染した牧草は、アカスジカスミカメに対しても致死的に作用すると考えられる。
成果の活用面・留意点
- NFL濃度を指標としたアカスジカスミカメ抵抗性牧草の選抜が可能になる。
- 牧草地から水田への飛来が問題となるのはアカスジカスミカメとアカヒゲホソミドリカスミカメであるが、NFLはアカヒゲホソミドリカスミカメに対しても50ppm以上の濃度で致死的に作用することが知られている。
- エンドファイトの中には家畜に有害な化合物を産生するものがある。育種に利用する際には、E. uncinataやE. occultansなど家畜に有害な化合物を産生しない種類のものを選択する必要がある。
具体的データ
その他
- 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
- 中課題整理番号:120b0
- 予算区分:交付金、委託プロ(国産飼料)、競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2008年度~2014年度
- 研究担当者:柴卓也、荒川明、菅原幸哉、吉田信代、森本信生
- 発表論文等:Shiba et al. (2015) Grassl Sci 61(1):24-27