稲麦サイレージ二毛作は食用麦との二毛作に近い経済性が見込まれる

要約

麦ホールクロップサイレージは飼料としての評価が高く、稲麦サイレージ二毛作は 農地と収穫機の有効利用、作業競合の軽減等の合理性もある。その経済性は、現行の助成 制度では平均的条件で食用小麦をやや下回るものの、経営経済的に成立する可能性は高い。

  • キーワード:稲WCS、麦WCS、二毛作、収益性、水田転作
  • 担当:自給飼料生産・利用・耕畜連携飼料生産
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

稲麦WCS(ホールクロップサイレージ)の二毛作は、農地・機械等の経営資源の有効利用のみならず、収穫調製技術の向上を背景とした良質の国内産粗飼料の増産にも寄与が大きい。「ダイレクト収穫体系による飼料用稲麦二毛作生産技術マニュアル」は2013年に刊行されたが、今後の普及拡大には経済性の解明が求められる。現在の生産助成制度では稲WCSと食用麦は水田利活用と畑作物の助成により一定水準の収益性が確保できるが、水稲あとの麦WCSは二毛作助成のみで収益性は低いという認識が一般的である。その一方、一部では麦WCSに対する畜産側の需要を背景に稲麦WCS二毛作に取り組む事例もみられる。
本成果では、現行政策下における各作付体系の収益性を経済統計、事例調査、既往成果等から試算し相互に比較検討するとともに、取組事例の実態を踏まえ、稲麦WCS二毛作の経営経済性と成立可能性に関して、特に食用小麦作との比較を中心に検討する。

成果の内容・特徴

  • 現行の助成金体系を前提とした作付体系別の収益性を比べると、類型1・稲麦WCS二毛作通年の所得は10aあたり5.7万円・時間あたり2,500円と試算され、類型3・稲WCS-食用小麦の6.6 万円・2,700 円を下回る。麦WCSロール数を7から9に増収させた類型2では時間あたり所得は類型3にほぼ匹敵する。(表1)
  • 現行の助成金は作物間の助成率の格差が大きく、食用麦類は助成率が高い。麦WCSは生産物価格に対する生産費用が低いため、各品目の生産物価格あたりの助成率を均衡するなどの制度改革があれば稲麦WCS二毛作が拡大する可能性は高い。(表1参考)
  • 食用小麦は数量払制度の下で多収であれば収益性は高いが、300~350kg/10a の平均規模・平均的収量水準では、現地事例の中にみられるような、肥料費、種苗費、地代等を低減する取り組みを組み合わせて麦WCS 生産費用を試算標準から3割程度削減できれば現行の助成金でも収益性は匹敵する(点線枠)。(表2)
  • 水稲あとに麦WCSを生産する各地の事例では、麦作適地、冬期休閑地と収穫機の有効利用、畜産側での麦WCSの飼料価値に対する高い評価などが共通する。麦WCSだけをとれば生産側の経済性は事例によって大きく異なるが、いずれも稲麦二毛作を通算すれば麦WCSは補完的役割を十分果たし、全体の飼料増産に寄与している。二毛作地帯であっても冬期休閑水田の面積は大きく、大規模経営体等がこれら農地を利活用してWCS二毛作に取り組むことは有力な方向といえる。(表3)

成果の活用面・留意点

  • 現行の助成金制度では都府県の平均的な生産性の下では食用麦類の収益性が麦WCSを一般に上回るが、すでに稲WCS の生産を行っている場合は稲麦WCS二毛作は耕種経営およびコントラクター組織等の所得拡大の方向としての経済性を有している。
  • 麦類によるWCS生産は、現地事例では大麦の利用が中心であるが、小麦・ライ麦等、稲WCSとの二毛作と収穫機の共通利用が可能な作物であれば同様に扱うことができる。地域ごとに適する具体的な品種、収穫時期などは現地で確認する必要がある。

具体的データ

表1~3

その他

  • 中課題名:耕畜連携による水田の周年飼料生産利用体系の開発
  • 中課題整理番号:120c3
  • 予算区分:交付金、委託プロ(国産飼料)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:恒川磯雄
  • 発表論文等:
    1)恒川(2015)関東東海農業経営研究、105:41-47
    2)農研機構(2015)「ダイレクト収穫体系による飼料用稲麦二毛作生産技術マニュアル(改訂版)」ウェブ公開予定