過剰排卵処置牛では胚伸長に適した血中プロジェステロン濃度と胚数が存在する

要約

過剰排卵処置牛において、胚伸長に適した血漿中プロジェステロン(P4)濃度と胚の数が存在する。また、血漿中P4濃度は子宮内グルコース濃度の変化を介して胚伸長に影響を及ぼす。

  • キーワード:過剰排卵処置、プロジェステロン濃度、胚伸長、ウシ
  • 担当:家畜生産・繁殖性向上
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜飼養技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

妊娠初期、特に発情後5日目の血漿中プロジェステロン(P4)濃度上昇が、ウシ胚の成長およびその後の生存に影響を及ぼすことが示唆されている。過剰排卵処置牛においては、複数の黄体が形成されるため血漿中P4濃度が著しく高まるが、その高レベルの血漿中P4濃度と胚の伸長との関係については未だ明らかでない。本研究では、過剰排卵処置をした黒毛和種牛の血漿中P4濃度と発情後13日目に回収した胚の長径との関係について検討することで、過剰排卵処置牛における高レベルの血漿中P4濃度が胚の伸長に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 過剰排卵処置牛および自然発情時に人工授精を行った対照牛の発情後13日目における平均血漿中P4濃度はそれぞれ29.5±2.3ng/mLおよび7.5±0.5ng/mL(平均値±標準誤差)であり、また、過剰排卵処置牛から発情後13日目に回収した胚の長径は対照牛のものと比較して有意に大きい(図1)。
  • 発情後13日目に回収した胚の長径は発情後5日目の血漿中P4濃度30.8ng/mLで最高値となる有意な2次曲線の関係が認められることから(図2)、発情後5日目の血漿中P4濃度が胚の伸長に影響を及ぼすことが考えられる。
  • 発情後13日目の子宮内のグルコース濃度は発情後5日目の血漿中P4濃度28.0ng/mLで最高値となる有意な2次曲線の関係が認められ(図3)、発情後13日目に回収した胚の長径は発情後13日目の子宮内のグルコース濃度と正の線形相関が認められることから、血漿中P4濃度は子宮内グルコース濃度の変化を介して胚伸長に影響を及ぼす可能性がある。
  • 発情後5日目の血漿中P4濃度と回収胚数の間には正の線形相関が認められる。また、発情後13日目に回収した胚の長径は、1頭あたりの回収胚数が11.8個で最高値となる有意な2次曲線の関係が認められることから(図4)、過剰排卵処置牛において胚伸長に適した血漿中P4濃度と胚の数が存在することが考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 妊娠初期における血漿中P4濃度がウシ胚の成長および生存に及ぼす影響について解明するための有用な情報となる。
  • 過剰排卵処置牛における血漿中P4濃度が著しく高い(胚の数が多い)場合に、胚伸長の抑制を引き起こす要因を明らかにする必要がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:受精・妊娠機構の解明と調節による雌牛の繁殖性向上技術の開発
  • 中課題整理番号:130b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:松山秀一、坂口陽祐(東京農大)、木村康二
  • 発表論文等:Matsuyama S. et al. (2012) J. Reprod. Devlop. 58(5): 609-614