高温環境下でのウシの体温上昇は脳内セロトニン放出の増加により抑制される

要約

高温環境下ではウシ第3脳室内セロトニン(5-HT)濃度が上昇すること、および、高温環境下での体温上昇が第3脳室内5-HT投与により抑制されることから、脳内5-HT放出の増加は、環境温度上昇時に体温上昇を抑制する生理反応を引き起こすと考えられる。

  • キーワード:脳内セロトニン、体温調節、暑熱、ウシ
  • 担当:家畜生産・代謝制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

暑熱による体温上昇を抑制して生理的ダメージを軽減するためには、送風・散水など放熱に必要な生体外部の環境条件改善だけでなく、発汗・呼吸・飲水行動・エネルギー代謝などの制御により体温を調節する生体機能の強化も必要と考えられる。
動物の体温調節を司るのは間脳の視床下部であり、そこで働く神経伝達物質の一つがセロトニン(5-HT)である。ウシの体温調節における5-HTの機能についてはほとんどわかっていないが、合成基質となるトリプトファンの体内供給量により脳内での5-HT放出量が変化することから、その機能を明らかにすることは栄養管理による体温調節機能強化に結びつく可能性がある。そこで本研究では、視床下部に隣接する第3脳室内における5-HT代謝の変化、および第3脳室内への5-HT投与による体温の変化から、急性高温負荷時の体温調節におけるウシ脳内5-HTの役割を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 室温22°C湿度60%一定の条件で2週間以上の環境馴致を行ったホルスタイン種去勢牛(約7ヶ月齢、平均体重200kg)に、急性の高温負荷を与える。急性高温負荷は、朝の給餌2時間後(10:00)より2時間で湿度一定のまま33°Cまで上昇させ(昇温期)、3時間にわたり33°Cを維持し(高温期)、その後2時間で22°Cまで戻す(降温期)というプロトコルで行う。
  • 第3脳室より採取した脳脊髄液中の5-HT濃度は、高温期後半において、また、5-HTの代謝産物である5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)濃度は高温期前半および降温期において、それぞれ高温負荷を行わない場合と比較して高い傾向にある(図1)。この結果は、環境温度の上昇により第3脳室近傍での5-HT放出と分解が増加したことを示唆している。
  • 高温期開始時(12:00)に、5-HT(2×106ng)を第3脳室内に投与すると、生理食塩水を投与した場合と比較して、環境温度上昇に伴う直腸温の上昇が抑制される(図2)。
  • これらの結果から、視床下部およびその近傍における5-HT放出は、環境温度上昇時に体温上昇を抑制する生理反応を引き起こすと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • ウシの脳内5-HTが高温環境下での体温調節に関与することを示唆するはじめての知見であり、体温調節機能強化を目的とした飼養技術開発のための基礎的知見である。
  • 本研究結果は急性の高温負荷条件におけるものであり、持続的高温環境下で同様の現象が認められるか否かは明らかではない。また、脳内5-HT放出が、どのような生理反応(発汗やエネルギー代謝など)を介して体温上昇を抑制するかについては明らかではない。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:家畜の生産効率と健全性の安定的両立を可能にする飼養管理技術の開発
  • 中課題整理番号:130d0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:須藤まどか、粕谷悦子(生物研)、矢用健一(生物研)、大谷文博、小林洋介
  • 発表論文等:粕谷、須藤(2014)栄養生理研究会報、59(2):38-43