カシューナッツ殻液の給与は泌乳牛のメタン産生量を低減させる

要約

泌乳牛の飼料にカシューナッツ殻液含有製剤を添加すると、乾物消化率ならびに乾物摂取量あたりの乳生産量を低下させることなく、メタン産生量を平均で約6%低減できる。胃液中のプロピオン酸モル比が低い牛ほど、高いメタン低減効果が得られる。

  • キーワード:メタン低減、カシューナッツ殻液、ルーメン発酵、泌乳牛
  • 担当:家畜生産・第一胃発酵・産肉制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

反すう家畜が摂取した飼料は第一胃(ルーメン)に取り込まれ、そこに生息する微生物による発酵を受ける。ルーメン発酵の代謝過程で生じるメタンは、飼料摂取エネルギーの損失となり、損失率は最大で15%に及ぶ。また、ルーメン発酵に由来するメタンは、地球上から発生する温室効果ガス年間排出量の約3-4%(二酸化炭素換算)を占め、環境負荷因子になっていることから、その低減が期待される。
カシューナッツ殻液(Cashew Nut Shell Liquid, CNSL)はメタン産生古細菌を含む一部の微生物に対し抗菌的に作用する成分を含んでいる。CNSLを含む製剤(CNSL製剤)を乾乳牛に給与すると、飼料消化率を落とすことなく、ルーメン発酵に由来するメタンを約2割低減できること、メタン産生とルーメン内プロピオン酸産生が連動していることを明らかにした。本研究では、泌乳牛にCNSL製剤を給与し、メタン低減効果を検証するとともに、プロピオン酸産生との関連を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 分娩後6-8ヶ月のホルスタイン種泌乳牛13頭を、対照区およびCNSL添加区に振り分け、試験区を反転させる。対照区ではCNSL製剤を添加給与しない完全混合飼料(TMR)を、CNSL添加区ではCNSL製剤(CNSLを重量比22%含有)を乾物給与量あたり1.5%添加したTMRを、一日2回給与する。
  • 各試験区(21日間)の最後5日間は呼吸試験装置を用いてメタン産生量を測定するとともに、全糞採取法により飼料消化率を測定する。最終日の朝給餌前にルーメン液を採取し、短鎖脂肪酸濃度を測定する。
  • 乾物摂取量あたりのメタン産生量は対照区に比べCNSL添加区で有意に低く(表1)、個体毎に算出したメタン低減率の平均は5.9%である。対照区においてルーメン液中のプロピオン酸モル比が低い牛ほどCNSL製剤添加によるメタン低減率が高い(図1, r=-0.758, P < 0.01)。
  • 乾物消化率、乾物摂取量あたりの乳生産量に試験区間の違いはないが、乾物摂取量、およびルーメン液中の総短鎖脂肪酸濃度はCNSL添加区で低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 泌乳牛へのCNSL製剤給与は、乾物消化率ならびに乾物摂取量あたりの乳生産量を低下させることなく、ルーメン発酵に由来するメタン産生量を低減する基礎技術である。
  • 本試験に用いたCNSL製剤は平成26年度12月時点で流通していない。CNSLを含む製剤は国内で流通しているが、使用目的が異なるため、濃度や形態等に違いがあり、別途評価が必要である。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:第一胃内発酵制御因子の解明と栄養制御による産肉特性改善
  • 中課題整理番号:130e0
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:真貝拓三、永西 修、三森眞琴、長嶋 協(出光興産)、小林泰男(北大院農)
  • 発表論文等:真貝ら(2014)栄養生理研究会会報、58(2):45-51