種類が異なる有機物の施用と適切な施肥を組合せた草地の温室効果ガス発生量

要約

草地にスラリーまたは堆肥を施用し、施用有機物からの窒素供給量を考慮した適切な施肥を組合せると、温室効果ガス発生量、牧草の窒素吸収量は、有機物の種類によらず同等である。

  • キーワード:一酸化二窒素、採草地、スラリー、堆肥、メタン
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

家畜排せつ物を有効利用し、牧草の生産性を適切に維持しつつ、温室効果ガス発生量を抑制できる草地管理が求められている。特に、種類が異なる有機物の施用と適切な施肥を組合せて管理した採草地の温室効果ガス発生量は実測値が少なく、草地においても情報が不足している。本研究は、スラリー、堆肥の肥効率を基礎に、適切な施肥を組合せて管理した採草地で、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)の発生量、牧草の窒素(N)吸収量を実測し、有機物の種類が温室効果ガス発生量と生産性に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • スラリー施用と適切な施肥を組合せて管理した採草地(スラリー区)は、堆肥施用と適切な施肥を組合せて管理した採草地(堆肥区)よりCH4発生量が多い(表1)。
  • スラリー区と堆肥区のN2O発生量は同等であるが、年次間差は比較的大きい(表1)。
  • 施肥時の気温が高くなるほど施肥N当たりN2O発生量のばらつきが増加し、施肥後の降水量、土壌水分の値が大きいほど施肥N当たりN2O発生量が多い(図1)。降水量と土壌水分は、気温より年次間差が大きく、N2O発生量の年次間差が生じる主要因である。
  • 二酸化炭素相当量(CO2-eq)に換算すると、CH4発生量は、N2O発生量の1割以下と少ない(図2)。CH4とN2Oの発生量を加算した温室効果ガス発生量は、スラリー区と堆肥区で同等である。
  • 牧草のN吸収量は、スラリー区と堆肥区で同等である(図3)。
  • 温室効果ガス発生量に及ぼす影響は、有機物の種類より降水量と土壌水分の年次間差の方が大きい。生産性を維持し、温室効果ガス発生量を抑制するには、有機物から供給されるNを考慮した適切な施肥が重要である。

成果の活用面・留意点

  • 家畜排せつ物の有効利用、肥料コストの削減、生産性の維持、温室効果ガス発生量の抑制を両立できる施肥設計を構築するための基礎情報となる。
  • 有機物から供給されるカリウム(K)がKの標準施肥量(200 kg K2O ha?1 yr?1)と同等となるよう、スラリー(66 Mg ha?1 yr?1)、または、堆肥(37-39 Mg ha?1 yr?1)を施用し、有機物から供給されるN(スラリー区:120 kg N ha?1 yr?1、堆肥区:33-51 kg N ha?1 yr?1)と施肥Nの和がNの標準施肥量(210 kg N ha?1 yr?1)となるように硫安を補った場合の結果である。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術および保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2008~2014年度
  • 研究担当者:森昭憲、寳示戸雅之(北里大)
  • 発表論文等:Mori A. and Hojito M. (2014) Soil Sci. Plant Nutr. 61(2):347-358