「イタリアンライグラス中間母本農3号」を利用した低硝酸新品種
要約
「イタリアンライグラス中間母本農3号」及びその後代系統を育種母材として育成したイタリアンライグラス新品種の硝酸態窒素濃度は、堆肥や窒素肥料を多量に施用する栽培条件において、市販品種で最も低いレベルの「優春」より20%以上低い。
- キーワード:イタリアンライグラス、硝酸態窒素、二倍体早生、飼料作物育種
- 担当:自給飼料生産・利用・飼料作物品種開発
- 代表連絡先:電話029-838-8647
- 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
牛の硝酸塩中毒の原因となる硝酸態窒素を飼料作物中に蓄積させないためには、適切な施肥管理を行うことが重要である。多量の堆肥の施用により飼料作物中に硝酸態窒素の蓄積が懸念される場合は、硝酸態窒素濃度が低い品種の利用も硝酸態窒素蓄積の抑制に効果的である。畜産草地研究所は硝酸態窒素濃度が市販品種中で最低レベルの「優春」より30%以上低い「イタリアンライグラス中間母本農3号(以下、「農3号」とする)」を育成している(2009年普及成果情報)。しかし「農3号」は収量性が市販品種よりやや劣るため、収量性に優れる品種や系統を利用して、硝酸態窒素濃度が「優春」より低く、収量性が「優春」等の市販品種と同程度のイタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)新品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「LN-IR01」「SI-14」「JFIR-20」は「農3号」及びさらに選抜した後代系統と収量性に優れる既存品種または系統を交雑し、幼苗時の硝酸態窒素濃度等を指標とした選抜を3回程度繰り返すことにより育成した、硝酸態窒素濃度が低く収量性に優れる二倍体早生の新品種である。
- 堆肥や窒素肥料を多量に施用する栽培条件において、育成品種の硝酸態窒素濃度は「優春」より20%以上、「ニオウダチ」「はたあおば」より30%以上低い(表1)。
- 関東及び九州地方における標準的な栽培条件において、育成品種の出穂始日が早生品種の「優春」「はたあおば」と概ね同程度であることから、早晩性は早生である(表2)。また乾物収量、乾物率、草丈、倒伏程度も「優春」「はたあおば」と同程度である(表2)。堆肥や窒素肥料を多量に施用する栽培条件においても概ね同様である(図表省略)。
- 「LN-IR01」「SI-14」「JFIR-20」は、栄養生長期の草丈や草型、株幅、止め葉の幅、最長稈の長さ等で明確な違いが存在する(図表省略)。
普及のための参考情報
- 普及対象:イタリアンライグラスを生産している畜産農家、コントラクター
- 普及予定地域・普及予定面積:普及予定地域は関東以西の暖地・温暖地で、普及予定面積は3品種合計で約3,000haである。
- その他:「LN-IR01」は「ゼロワン」としてカネコ種苗から、「SI-14」は「タチユウカ」として雪印種苗から、「JFIR-20」は「うし想い」としてタキイ種苗から販売されている。 これらの品種の硝酸態窒素濃度は既存品種より低いが、堆肥や窒素肥料を多量に施用する栽培条件では硝酸態窒素濃度が牛の急性硝酸塩中毒のガイドライン値である0.2%を上回ることがある。硝酸態窒素濃度が低いイタリアンライグラスを確実に生産するためにはこれらの品種の利用だけでなく、堆肥や窒素肥料を適切に施用する施肥管理も必要である。
具体的データ
その他
- 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
- 中課題整理番号:120b0
- 予算区分:交付金、委託プロ(低コスト)
- 研究期間:2008~2015年度
- 研究担当者:川地太兵、清多佳子、原田久富美、須永義人、荒川明、内山和宏、水野和彦、畠中哲哉、星野健一(カネコ種苗)、榎本剛士(カネコ種苗)、西本淳(カネコ種苗)、寺沢祐一(カネコ種苗)、近藤聡(雪印種苗)、立花正(雪印種苗)、小橋健(雪印種苗)、小槙陽介(雪印種苗)、小山内光輔(雪印種苗)、関根平(雪印種苗)、杉田紳一(日本草地畜産種子協会)、佐々木亨(日本草地畜産種子協会)、秋山貴紀(タキイ種苗)、長谷川智浩(タキイ種苗)
- 発表論文等:
1)川地ら「LN-IR01」品種登録出願2013年8月13日(第28442号)
2)川地ら「SI-14」品種登録出願2014年8月26日(第29465号)
3)川地ら「JFIR-20」品種登録出願2014年8月29日(第29484号)