飼料用トウモロコシの新たなカリ減肥指針「土壌養分活用型カリ施肥管理」

要約

飼料用トウモロコシ栽培において、カリ施肥が不要と判定される交換性カリの基準値を従来値よりも大幅に引き下げた36mg/100gとし、低カリ肥沃度条件におけるカリ施肥量を10kg/10aに抑える施肥管理により、目標乾物収量1,800kg/10aを得られる。

  • キーワード:飼料用トウモロコシ、カリ施肥、交換性カリ、土壌診断
  • 担当:自給飼料生産・利用・大規模飼料生産
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

化学肥料の価格変動への対応や持続的な農業生産のため、作物栽培には合理的な施肥管理が求められる。飼料畑では牛ふん堆肥の連用等により土壌のカリ肥沃度が高い圃場も多く、土壌に蓄積したカリを積極的に利用することで施肥量を低減できると考えられる。そこで、関東東海地域飼料畑土壌のカリ診断基準(草地試1988)を見直し、土壌カリを有効活用する飼料用トウモロコシ(Zea mays L.)のカリ施肥管理法を開発する。

成果の内容・特徴

  • トウモロコシの目標乾物収量は都府県の平均目標生収量6,500kg/10aと黄熟期の乾物率27~28%に基づき1,800kg/10aとする。牛ふん堆肥の施用履歴の違いにより土壌の交換性カリ含量が異なる圃場(褐色低地土)でカリ無施肥栽培したトウモロコシはカリウム(K)吸収量の増加にともない増収し、K吸収量が20kg/10aを越えると目標収量1,800kg/10aに達する(図略)。土壌(乾土あたり)の交換性カリ36mg/100g以上でK吸収量20kg/10aが得られることから、この交換性カリ含量をカリ肥料無施用の判定基準とする(図1)。
  • 低カリ肥沃度条件(交換性カリ13mg/100g)ではカリ施肥量10kg/10aで目標収量に達し、このときのK吸収量16kgK/10aをK必要量と考える(図2)。この場合、持出量の方が多いため、トウモロコシによるKのぜいたく吸収や品種によるK吸収量の違い等も考慮して牛ふん堆肥2~3t/10a(平均カリ含量0.9%現物)の施用により土壌カリを補う。
  • 中程度の肥沃度(カリ無施用基準の半量18mg/100g)ではK吸収量は図1から14kgK/10aと推定され、K必要量(16kgK/10a)との差2kgK/10aを補うカリ施肥量は見かけのK利用率70%(図2)から4kg/10aである。このカリ施肥は堆肥施用時には不要とする。
  • 以上の結果に基づき、乾土100gあたりの交換性カリ含量が18mg未満、18以上36mg未満および36mg以上の条件に応じたカリ施肥を行うトウモロコシの土壌養分活用型カリ施肥管理を提示する(表1)。従来の関東東海地域の飼料畑土壌を対象とした診断基準と比較してカリ施肥が不要と判定される基準値を大幅に引き下げている。
  • 土壌(黒ボク土)や品種、気象等が異なる条件での実証試験においても新たなカリ施肥管理により目標収量を得ることができ、概ね良好な結果が得られている(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:公設研究機関、普及組織、生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東北から関東東海地域のトウモロコシ栽培地帯(約2.5万ha)。岩手県では本試験結果に準じて土壌の交換性カリ含量に応じたカリ施肥法が研究成果として提示されている。
  • その他:目標収量を得るには窒素・リン酸施肥も含む適切な栽培管理が必要である。K吸収量が異なる品種にも適応できる。トウモロコシのK吸収量に基づく牛ふん堆肥の施用量の目安は3t/10a程度であり、過剰な施用は土壌のカリ肥沃度を必要以上に高める。放射性セシウム対策が必要な地域では各地の指導にしたがう。

具体的データ

図1~図3,表1

その他

  • 中課題名:大規模作付けに適した飼料作物の省力的安定多収栽培技術の開発
  • 中課題整理番号:120c1
  • 予算区分:交付金、委託プロ(低コスト、えさ)
  • 研究期間:2003~2015年度
  • 研究担当者:須永義人、原田久富美、川地太兵、尾張利行(岩手畜研)、伊藤孝浩(岩手畜研)、出口新
  • 発表論文等:Sunaga Y. et al. (2015) Soil Sci. Plant Nutr. 61(6):957-971