堆肥発酵熱を利用して寒冷期の乳量を増加させる連続温水給与システム

要約

吸引通気式等の発酵排気を直接回収可能な堆肥化施設において、堆肥発酵熱回収装置と貯留水の常時循環加温を組み合わせた温水給与システムを構築することで、搾乳牛に30~35°C程度の飲水供給が可能であり、これにより寒冷期の飲水量や乳量が増加する。

  • キーワード:家畜飼養、温水給与システム、乳量増加、飲水量増加、堆肥発酵熱
  • 担当:バイオマス利用・畜産バイオマス
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜飼養技術研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

家畜ふん尿の堆肥化処理では、微生物の分解により堆肥温度は70°C程度まで上昇し、水蒸気とアンモニアを含んだ発酵排気が多量に発生する。排気を外気で希釈せず直接回収する吸引通気式等の堆肥化施設において、アンモニアを化学的に除去した発酵排気を潜熱回収型熱交換器に導入して排気中の熱を回収し温水を得ることができる(2012年主要普及成果情報「低温熱源である堆肥発酵熱を回収して温水に変換するシステム」)。ここで得られた温水を、一般に冬季の飲水量や乳量が減少することが知られている搾乳牛に対して、飲水として給与することによる生産性の向上を目的に、連続・安定的な温水給与システムを構築するとともに、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 発酵排気中の熱を回収して得られた温水を温水タンク(120頭規模の酪農家で2m3程度の容積)に一時貯留後、ポンプにより牛舎へ送水し、フロートスイッチにより制御された水槽へ、乳牛の飲水として供給する。牛舎へ送水された水のうち、水槽へ供給されなかった水は循環し、再度発酵熱により加温されて温水タンクで貯留される(図1)。
  • 本システムでは、循環加温により飲水が行われていない時間帯でも発酵熱を回収でき、温水タンクによる水と熱の貯留効果により、飲水が盛んな搾乳前後の時間帯であっても安定した温度と量の温水を供給できる。これにより、搾乳牛120頭規模の酪農家では、50°C以上の発酵排気により原水を約20°C昇温し、平均30~35°Cの温水を牛1頭あたり120L/日程度供給できる。このとき水の加温に利用される熱量は1日あたり灯油45Lと同等の1.65GJ(19kW相当)である。
  • このように得られた30~35°Cの温水を寒冷期に、搾乳牛に給与することによって、無加温の冷水(10°C以下)を給与する場合に比べて、飲水量は約10%増加する。それにともない飼料摂取量は増えずに実乳量が有意に3.7%増加し、3.5%補正乳量も増加する傾向がある(図2)。この温水給与により、水温10°C以下の寒冷期に乳量が増加することで1頭・1ヶ月当たり3000円程度粗収入が増加すると試算される。
  • 一方、100頭規模の酪農家に本温水給与システムを設置する場合、費用は480万円程度と試算され、減価償却および保守点検費用などの合計は年間約90万円である(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:本システムは、冬季に寒冷になる地域において、搾乳牛への温水給与により、乳量増加に取り組む生産者向けの成果である。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国内、国外を問わず排気を直接回収できる吸引通気式等の堆肥化施設で利用可能であり、現在までに3件の導入実績がある。
  • その他:本熱回収システムは共同研究機関の(有)岡本製作所で販売しており、農場の施設レイアウトによって、本システムの導入費用や運転費用は異なる。また、本システムは、アンモニア回収装置を併設し、アンモニア液肥と発酵熱の両方を利用する。熱交換器で発生する結露水は農場内での利用や放流が可能である。

具体的データ

図1~図2,表1

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
  • 中課題整理番号:220d0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:小島陽一郎、松山裕城(現、山形大農)、阿部佳之(現、農林水産技術会議事務局)、天羽弘一、宮地慎
  • 発表論文等:小島ら(2014)農業施設、45(3):99-107