放牧牛の排せつ物に由来するメタンと一酸化二窒素の排出係数

要約

日本のIPCCガイドラインに準拠した牛の通常の放牧期間(5~10月)における排せつ物に由来するメタンの排出係数は0.076%で、IPCC既定値(0.067%)と同等であるが、一酸化二窒素の排出係数は0.684%で、IPCC既定値(2.0%)より小さい。

  • キーワード:温室効果ガス、家畜排せつ物、草地、排出係数、放牧
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

放牧は、飼養管理の省力化、飼料費の節約による畜産物の生産機能の強化に加え、遊休農地を保全し、生産基盤を維持する観点からも重要性が増している。通常の放牧期間は、牧草などの生育期間に対応する5~10月であるが(夏季放牧)、稲発酵粗飼料などの補助飼料を利用し、上記以外の期間(11~4月)に放牧する技術も確立されている(冬季放牧)。しかし、放牧牛の排せつ物に由来する温室効果ガス発生量は国内での実測値が少なく、排せつ物に対応する排出係数(EF)も未整備である。本研究は、国内の放牧地で放牧牛の排せつ物に由来するメタン(CH4)及び一酸化二窒素(N2O)の発生量を通年観測し、日本の放牧牛の排せつ物に由来するCH4 EFとN2O EFを明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • ふんの全有機物濃度と全窒素(N)濃度は、排せつ時期による差が小さいが、尿の全N濃度は、5~10月(夏季放牧)より11~4月(冬季放牧)の方が高い(表1)。
  • ふんのCH4 EFは、11~4月(冬季放牧)より5~10月(夏季放牧)の方が大きい(表2)。前者のCH4 EFは、IPCC既定値(0.067%)より小さく、後者のCH4 EFは、同等である。尿に由来するCH4の発生は認められない。
  • N2O EFは、ふんより尿の方が大きい。ふんと尿のN2O EFは、11~4月(冬季放牧)より5~10月(夏季放牧)の方が大きい傾向にあるが、いずれの時期も、IPCC既定値(2.0%)より小さい(表2)。
  • 以上のように、CH4 EFとN2O EFは、放牧時期、ふんと尿により異なるが、日本のIPCCガイドラインに準拠した5~10月の通常の放牧期間における排せつ物に由来するCH4 EFは0.076%、N2O EFは0.684%である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本結果は、日本独自の排出係数の原単位の一部として日本国温室効果ガスインベントリに採用され、温室効果ガス排出量算定の改善に資する情報である。
  • 畜産草地研究所・那須研究拠点の藤荷田山生態観測試験地のふんパッチ(1.2 kg、直径20cm)、尿パッチ(200 mL、直径20 cm)、対照草地におけるチャンバー法(各3反復)による実測値(夏季放牧3回、冬季放牧2回)を基礎に取りまとめたものである。

具体的データ

表1~表2

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術および保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2015年度
  • 研究担当者:森昭憲、寳示戸雅之(北里大)
  • 発表論文等:Mori A. and Hojito M. (2015) Grassl. Sci. 61(2):109-120